本誌『訳官使・通信使とその周辺』は、科学研究費補助金・基盤B「通信使と訳官使の統合的研究―一七―一九世紀東アジア国際秩序と構造の視座転換―」(二〇一九~二二年度の四年間、研究代表者は池内敏)が採択されたことを受けて刊行するものである。
一七―一九世紀東アジア国際秩序は、①中国(明清)を頂点とした「中国皇帝―周辺国王」関係の複合からなる国際秩序の存在と、②日本(徳川幕府)がそうした国際秩序から離脱し、自らを頂点とする別の国際秩序を構成していた、とする二点を柱に理解されてきた。このうち②は、究極的には日朝関係史とりわけ朝鮮通信使なる外交使節のみをもって論じられてきた。本研究はこれに対して、徳川幕府を頂点とする国際秩序なる従前の理解を再検討し、むしろ当時国交のなかった中国(明清)の影響力が小さくなかったことを考慮しながら近世東アジア国際関係史の枠組みの再構成をめざしたい。そのために、まず日朝関係史とその周辺について検討を進めるものである。
この研究課題は石田徹、程永超の二人とともに一年めの共同研究を進めてきた。そこでは、若手研究者の研究発表や国際的な調査活動の場を設けること、国際シンポジウムを開催すること、および研究成果報告書を年々刊行することをも課題に掲げた。本誌はまずはそうした年々の研究成果報告書として刊行するものである。
掲載される論文·研究ノートは、本科研の開始と同時に発足させた「訳官使·通信使とその周辺」研究会等の公開の場での討議を経て成稿されたものを掲載するのを原則としたが、外部査読を経た原稿というわけではない。場合によっては執筆者の判断で改稿して学術誌に投稿がなされる場合もあろうかと思う。本誌はあくまで科研費採択期間中に限って刊行される研究成果報告書だからである。
本科研における研究会・シンポジウム・調査活動の概要は彙報として収めた。また、研究分担者の程永超が本科研のHPを作成したので最新情報(次回開催予定の研究会の日時など)は随時公開される。ご参照いただけると幸いである(科研課題名の一部分で検索可能)。
二〇一九年一一月
「訳官使・通信使とその周辺」研究会
池内 敏(名古屋大学)
石田 徹(島根県立大学)
程 永超(名古屋大学)