Research TOPICS

有機物をキーワードとして、これまでに様々な研究テーマを扱ってきました。最近は特に、湖沼・海洋など水圏環境中の非生物態有機物(DOMやPOMなど)の動態が物質循環や生態系に与える影響を解明すべく、新たな分析手法の開発も含めて、研究を進めています。(共同研究のご相談もお気軽に)

研究の興味:有機物の生物地球化学的動態

水圏環境中で、溶存有機物(DOM)や懸濁態有機物(POM)など非生物態有機物は、微生物ループや系外流入・流出、分解による栄養塩供給など、様々なプロセスを通じて、炭素・窒素などの物質循環や生態系の働きに中心的な役割を果たしています。

有機物の濃度・組成などの情報(どのような有機物がどのくらい環境中に存在しているか?)は様々な環境で蓄積しつつありますが、有機物の動態メカニズム(なぜそのようになっているのか?)には、まだ非常に謎が多いのが現状です。水温上昇や貧酸素化など環境変動に対する有機物の応答を理解する上でも、動態メカニズムの理解は欠かせません。高次生態系への影響や、微生物群集との相互作用の理解に向けても重要となります。

動態メカニズムの中でも、個人的に特に昔から興味があるのは、

「難分解な有機物と易分解な有機物の違いをもたらす要因は何か?」

という問いです。私は特に生成源の違い(生物の種類、場所など)が解明の鍵になると考えていて、様々なアプローチで研究を進めています(天然試料の化学分析、有機物の分解実験、微生物の培養実験など)。

大学院では海底下深部、ポスドクでは海洋(表層~深海)を主なフィールドとして研究を行い、現在は陸水(主に琵琶湖)を主な研究対象としています。琵琶湖では、サンプルアクセスの良さを活かしながら、他の水圏環境にも適用可能な、新たな研究アプローチの開発や、重要な知見の獲得を目指します。

また、理学的な探求と同時に、琵琶湖では人間社会と環境の関係も重要になります。行政とも連携しながら、生態系や水質の保全に役立つような科学的知見の獲得を目指します。

現在進行形の研究トピックス

1.湖沼水中有機物中の細菌寄与度定量法の開発・応用

・琵琶湖と流入河川の水中有機物のアミノ酸鏡像異性体(D-アミノ酸)濃度の時空間変動の把握

・微生物培養実験による細菌由来DOM中のD-アミノ酸濃度の制約

・準易分解性DOMと難分解性DOMへの細菌寄与率の定量

・環境有機物中のD-アミノ酸分析法・解析法の改良

など、主に科研費基盤B(代表)のプロジェクトとして現在研究中です。


溶存有機物の分子サイズ-分解性の関係解明

・生分解実験による分子サイズ別のDOM分解速度推定と、その制御要因の解明

・限外濾過などを用いた、水中有機物のサイズ別分画濃縮法の開発

・琵琶湖における分子サイズ別DOM生産・分解フラックスの経時変動の把握と、物質循環における役割の解明

・分子サイズ別DOM動態と細菌群集組成の関係解明

など、主に科研費基盤B(分担)、基盤C(分担)のプロジェクトとして現在研究中です。


.有機物動態に関する新規指標の開発

・DOMの高精度バルク窒素同位体比分析法の開発

・環境有機物中アミノ酸の高精度化合物レベル窒素同位体比分析法の開発

・微生物代謝によるアミノ酸窒素同位体分別パターンの制約

・三次元蛍光・アミノ酸組成などを用いた有機物分解性指標の開発

など、主に科研費若手研究(代表)、基盤B(代表)、萌芽(分担)のプロジェクトとして現在研究中です。

過去の研究テーマ

1.樹木年輪同位体比分析による古環境復元

マウンダー極小期における太陽活動変動が気候変動に与えた影響の解明(Yamaguchi et al. 2010, PNAS)


2.海洋堆積物中の有機物動態と生命圏の解明

・アミノ酸の化合物レベル窒素同位体比分析、鏡像異性体比分析から、海洋堆積物中有機物への微生物の寄与を推定(論文準備中)

・海底下深部堆積物の地球化学プロファイルによる微生物代謝推定(D'Hondt et al. 2015, Nature Geosciencesなど)


3.海洋水塊中の有機物の生成・変換プロセスの解明

・アミノ酸の化合物レベル窒素同位体比分析などから、北太平洋亜熱帯環流のDOMとPOMの生成・変換プロセスを解明(Yamaguchi & McCarthy 2018, GCA)

・同様に、カリフォルニア沿岸湧昇域とメキシコ湾のDOMとPOMの生成・変換プロセスを解明(論文準備中)


4.同位体比分析による回遊魚の生態解明

・放射性炭素同位体分析から探るシロザケの生殖戦略と摂食海域の関係


将来的な研究トピックス(構想中)

・微生物オミクス解析と有機物分析・実験の組み合わせによる、有機物-微生物相互作用の解明

・水中有機物をサイズ別に分画して、化学組成をそれぞれ詳細に解明

・水温、栄養塩濃度などの環境因子が水中・堆積物中の有機物分解プロセスに与える影響の解明

・アミノ酸窒素同位体比を用いた、水圏生態系における微生物食物網の寄与度推定

・サブミクロン有機物粒子による水圏環境中の物質輸送プロセスの解明

・各種アミノ酸の非生物的ラセミ化速度を実験的に把握し、D-アミノ酸による環境中有機物中の細菌寄与度推定法を改良

・水圏有機物中非正規D-アミノ酸の動態解明

・水圏有機物中アミノ糖の動態解明

など