招待講演

招待講演スピーカー

阿戸 学 

国立感染症研究所・ハンセン病研究センター・感染制御部


「研究者としてのminimum requirementは何かと思ったときに聞く話」

「若コロで講演していただけますか」

世話人の松村先生からメールが届いた。光栄なこと、と思いながら先を読むと「細菌学会でのシンポや感染研若手向けの話の発展で」という依頼だった。過去の招待講演をみると、研究の話ではないのは、「彼女の告白」以来敬愛する石川雅之氏のみである。2.5流研究者を自認している私であっても、学会の依頼講演が全て与太話というのは、直視するには辛すぎる現実である。そもそも、除名されても本望と、シンポで洗いざらい喋ってしまった。どうしたものか、と思いを巡らせた。反省点はある。私を含めて、少年マンガのように困難の中生き延びていく話のシンポになってしまった。悪くはないが、細菌から学ぶのであれば、違う語り口もあったはずだ。スーパーサイヤ人ではないクリリンでもウーロンでも、環境と自己の把握と、正しい準備さえあれば、研究者として、イツモシヅカニワラッテ生きていける、そういう話をしてみようか。決心して返信した。

「ゆるゆるトークでよければ」


前田 智也

北大・農学研究院

理研・生命機能科学研究センター

実験室進化による薬剤耐性進化ダイナミクスの解析」

抗生物質が効かない薬剤耐性菌の出現は深刻な社会問題である。細菌は耐性進化の過程で任意に耐性能を変える事はできず、他の薬剤への耐性・感受性が連動して変化するというクロストークの現象が見出されてきた。このような現象を用いる事で、耐性進化を制御出来ると期待されるが、クロストークが生じる詳細な機構は明らかになっていない。そこで我々は、大腸菌における95種類の薬剤に対する耐性進化について、培養ロボットを用いた大規模な実験室進化を行い、得られた進化株のゲノムやトランスクリプトーム変化、及び様々な薬剤に対する耐性能変化を網羅的に解析する事で、薬剤耐性の進化的拘束を明らかにした。さらに、様々な細菌種間における薬剤耐性機構の共通性や個別性を理解するために、現在9種類の細菌を用いた薬剤耐性進化実験を行っている。本講演では、このような解析により明らかになってきた細菌の薬剤耐性進化ダイナミクスについて紹介する。

藤谷 拓嗣

中央大学理工学部生命科学科助教

早稲田大学ナノ・ライフ創新研究機構未来イノベーション研究所招聘研究員

地球の窒素循環を駆動する未培養微生物の実態に迫る

およそ140年前,Robert Kochらが寒天平板プレートを開発し,未知の微生物を獲得する純粋培養法が確立された。この技術は今でも多くの研究者によって用いられているが,依然として99%以上の微生物が培養できていない。地球の窒素循環を駆動する微生物も,例外ではない。窒素は,アミノ酸や核酸といった生体を構成する上で必要不可欠な元素であり,地球の物質循環においても重要である。しかし,自然環境では窒素が欠乏状態にあり,深刻化すれば生態系の破壊や人間の健康にも悪影響を及ぼす。こうした状況から私たちを救っているのが,窒素浄化を担う硝化菌である。硝化菌は実験室で培養することが難しく,その性状は不明な点が多い。しかし,近年の研究成果により,その実態が少しずつ明らかになってきた。本発表では,未培養微生物である硝化菌の研究によって得られた知見を紹介するとともに,地球上に生息する微生物の実態を知ることが如何に面白いか,皆さんと共有したい。