我々は、動物が進化の歴史の中で見せてきた創造的な側面に焦点を当て、自然選択の中で、選択の素材となる新しい形態が、どのようにして生み出されてきたかを明らかにしようとしています。
動物の進化の歴史は、決して我々ヒトに向かって、階段を上ってきたものではありません。しかし、動物の祖先が多細胞体制を獲得した直後の姿が、現生のカイメンとかセンモウヒラムシ、あるいはクシクラゲのようなものだったと想定すると、進化の歴史の中で新しい組織や形態的特徴を獲得してきたことは疑いありません。
進化は、遺伝する特徴の集団における割合が時間経過の中で変化していく過程です。したがって、遺伝情報に変化が起こり、その変化した遺伝情報が集団内で広まることで、新しい形態的特徴をもった種が生まれていきます。祖先のもつ遺伝情報がどのように書き換えられることで、集団の中に貝殻をもつ個体が現れたのでしょう。貝殻をもった祖先は、どのように遺伝情報を書き換えて、1枚だった貝殻を2枚に分けていったのでしょう。個体発生の中で貝殻をつくる遺伝子を手がかりに、研究しています。
一つの遺伝子を書き換えるだけで十分であったとも思えません。複数の遺伝子に変化が起こって、ようやく貝殻ができるなら、その途上はどんな様子だったのでしょう。遺伝子の変化は、そんなに都合良く、同じ個体で蓄積できるのでしょうか。
様々な動物の発生を比較すると、同じような形態的特徴が、異なる遺伝子が関わる発生プロセスで形成される例が報告されています。一つの形態をつくる方法は一つに限定されないのです。複数の遺伝子の変化が関わる新しい形態の進化の背景には、このような「発生システム浮動」と呼ばれる、形態と遺伝子の緩やかな結びつきがあったのではないかと考えています。
Project 1: 軟体動物の貝殻形態の進化
軟体動物の貝殻が、どのような遺伝情報の書き換えで獲得されたのか、また二枚貝はどのような遺伝情報の書き換えで二枚の貝殻をもつようになったのかを研究しています。二枚貝は、貝殻を閉じるための閉殻筋(貝柱)も新しく獲得しました。貝殻を二枚に分けたことと閉殻筋の獲得は、機能的には深くかかわっていますが(どちらかがないとほとんどメリットがない)、発生学的改変、遺伝情報の書き換えにおいても、どこかに接点があったのでしょうか。
軟体動物は、硬組織として貝殻だけではなく、棘をもつ種もいます。中でもヒザラガイは殻も棘ももっており、軟体動物は最初に獲得した硬組織は、貝殻だったのか、あるいは棘であったのかも議論されています。この問題に、ヒザラガイの硬組織の発生の研究からアプローチしています。
Project 2: 頭足類のユニークなボディプランの進化
軟体動物はらせん卵割を経てトロコフォア幼生へと発生する種が大半ですが、頭足類は、初期発生を大きく改変して、ユニークなボディプランを獲得しました。我々のものも含めた研究から明らかになった、らせん卵割発生の仕組みを頭足類のものと比較することで、頭足類のユニークなボディプランがどのように進化したのか、明らかにしていきます。
Project 3: らせん卵割動物に見られる発生システム浮動の研究
らせん卵割動物の初期発生を題材にして、発生システム浮動の研究をしています。らせん卵割動物は軟体動物や環形動物、扁形動物を含む分類群です。特徴の1つとして、卵割期のどの割球がどのような発生運命をもつかということが動物門を超えてよく保存されていることが挙げられます。そうなると当然、割球の発生運命を規定する仕組みも保存されていると考えるのが自然です。しかし実際には、対応する割球でも、最初期にはたらく遺伝子群は必ずしも同じではないことが分かってきました。発生カスケードの上流ではたらく遺伝子が異なるのに、どのように類似した発生運命が規定されうるのでしょうか? 発生システム浮動が起こる仕組み、そしてそれが発生の進化に果たす役割を解き明かそうとしています。
Project 4: 棘皮動物を特徴付ける5放射相称の体制の進化発生学
棘皮動物は、5放射相称というユニークな体制を獲得して反映してきました。発生過程でどのように「5」を生み出すのか、その仕組みをイトマキヒトデやヒラモミジガイを対象にして明らかにしようとしています。
Project 5: 棘皮動物に見られる発生システム浮動の研究
棘皮動物の初期発生過程にも発生システム浮動の現象が見られます。ウニとヒトデの内中胚葉細胞の分化を見ると、全く異なる転写因子の相互作用が見られることが知られています。同じ内中胚葉を形成するための仕組みが、どのように変わることができたのか、そのことが理解できれば、形態の進化に結びつく発生過程の変更がどのようなものかも理解できるのではないかと考えています。
また、私たちは、野外で採集してくるウニでは、個体ごとに発生遺伝子の相互の制御関係に違いがみられる、個体差があることを見いだしています。野外では、海水温や餌の量など様々な環境で発生を進行させることが必要です。発生過程を柔軟に変更させながら、形態形成を進めていくことの反映として、発生に個体差が見られているのではないか、そして、この柔軟さが形態の進化にも関わっているのではないかと考えています。
思い返すと、ダーウィン以前は、生物の個体差はノイズでしかありませんでした。ダーウィンは、個体差こそが進化の原動力であることを説きました。発生の個体差も決してノイズではないと考えています。
Project 6: 爬虫類の系統、分類、生物地理、保全
日本産および外国産の爬虫類について、形態からの記載分類や遺伝子を用いた分子系統学的な研究を行っています。また、生物地理や保全についても、野外調査を行っています。
Project 7: 理科の教科書における種問題
小・中・高の理科の教科書については、異なる分類階級が同列に扱われたり、各地域に対応しない種名のみが掲載されたりしてきました。これらの問題を解決するため、教科書を中心として文献学的な研究を行っています。
研究内容についてのお問い合わせは、以下のメールアドレスにご連絡ください。(@を1つ減らしてください)
和田洋: ant09champ@@icloud.com守野孔明: morino.yoshiaki.ge@@u.tsukuba.ac.jpこれまでの卒業研究や修士、博士論文のタイトルはMEMBERのページの下部をご覧ください。