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保多織(ぼたおり).江戸時代から伝わる香川の伝統的な織物.その生地を使って高松市のアトリエで自分の手で服をつくり上げるデザイナーがいる.加えて香川で活動する漆芸作家や地元のデザイナーなど熱量のある人たちが集まったプロジェクトは,2025年11月にパリ,Paris Fashion Week での Global Fashion Collective Paris でランウェイショーを経て,その勢いをそのまま香川での凱旋ショーに辿り着いた.重要文化財としての香川県庁(丹下健三設計)の空間の使い方としては異例の出来事.写真と共にその特別な時間を振り返る.
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ある日のこと.香川のブランドがパリのファッションウィークでランウェイショーを開催した,ついては,香川県庁のピロティで凱旋ショーを開催予定で,地元のモデルを募集中,というヘア・デザイナーからの投稿をたまたま香川の情報発信サイトで目にした.香川県庁のピロティでファッションショーをする?丹下健三が設計したこのピロティ,街の人に開かれんと望んだその空間が,ショーの舞台になることを想像しただけで居ても立ってもいられなくなる.そんなこと仕掛けられるのはどういう人なんだろう.矢継ぎ早にキーボードをたたく.boutique june.名前と同時にどこか懐かしい女の子の画像のロゴが出てくる.そのロゴは少し意外だったが,パリのショーの画像も音楽も確かにカッコいい.洋服に使われている布は,香川県の伝統的な「保多織」というものらしい.クリエイションのクオリティがしっかり伝わってくる.こんな人が香川に居るんだ,これはぜひ見たい.見なくてはならない.
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ただ,県庁という公共の場所でイベントを開くことが個人でそんなに簡単に出来ることではなかろうという思いが去来する.さらに深掘りをすると,パリでのコレクションでは漆芸研究所の若いアーティストの制作したボタンや,香川のデザイン事務所が手掛けた下駄もコラボレーションする,とある.なるほど,香川の若いクリエイターたちを後押しするように香川県も支援していることがだんだん見えてくる.ショーやその美しい洋服にも瞬間で魅了されたし,パリ・ファッション・ウィーク凱旋という箔がついておそらく多くのクリエイターや洋服に興味を持つ人たち,香川のデザイン分野などの重要人物が集まるだろう,という予測はついた.これは何としても体験したい,ただ調べていくと,観覧無料で座席数が限られているけど予約は出来ない.警備の関係で見られない可能性もある.うむ.少し躊躇したものの,会ったこともないそのデザイナーにインスタのDMを送ったのだった.この空間がこのように使われることを楽しみにしています.現地で取材とご挨拶が出来たら嬉しいです,と.
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数日してデザイナーから挨拶についてはショーの後であれば対応できるかもしれない,という趣旨の丁寧な返事が返ってきた.挨拶出来ればラッキーだし,写真くらいどうとでもなるだろうといつもの楽観的な気楽な感じに落ち着いた.いずれにしても,まずは僕自身が現地に行けばいいのだ,あとは何とかなるだろう.
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開場予定時間より少し早めに現場に到着する.すでに5,60人ほどの人が列を作っている.椅子が300程度だろうか,丹下健三の設計したピロティに並べられている.並べられた席の数を見ると,このまま並んでおけば席は確保できそうだ.ランウェイは県庁前の通りに並行して設置されている.つまり,片側は観客席,片側は街に開かれている.これなら,反対側の舗道からでも写真が撮れそうだ.そうこうしているうちに,列に並ぶ人たちがどんどん増えていく.県民からモデルを募集したのでそういう関係者も多いのかもしれない.高校の制服姿で先生に引率されている若者や,小さな子供連れの母親.大きなメディアのカメラもたくさん並んでいる.やはりこれは,香川県庁という建築にとってもおそらくエポックメイキングな出来事に違いないと確信する.たまたま遭遇した知り合い(関係者席が確保してあるという,いいな)と談笑したり,このイベントの背後について話を聞いたりしながら過ごしているうちに,開場の時間を迎えた.
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今回のイベントやショーがどんなに素敵だったか,については,多くの他のメディアのレポート記事に任せたいと思う.池田知事が歩いたこととか,パリでの準備の顛末など,アットホームな趣向もあり興味本位ではじめてショーを見る観客にも楽しめるような配慮がなされていた.いざランウェイが始まると,プロのモデルに混じった県民モデルも事前の練習の賜物なのだろう,ファッションショーに疎い自分には見分けがつかないほど馴染んでいた.空間の力を差し引いても十分に立派なショーだった.全体をそのデザイナーが取り仕切っているのは見て取れた.ひとりひとりのモデルに秒単位でゴーサインを出し,送り出したモデルと洋服を見守るプロの姿がそこに在った.
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吉原潤さん.boutique june 代表.代表と言っても,服つくりはすべて潤さん本人の手でつくられるということを知ったのは,後日のこと.県庁のピロティを実現するまでの紆余曲折や,服つくりを始めたきっかけ,保多織のこと,などなど,ショーの翌日から開催された特設展示受注会でゆっくりお話を聞けたときだった..言葉が生きている,そう感じた.この人の熱量に,多くの人たちが手を差し伸べたのだろうと想像しながら話を聞いた.これはまたどこかの機会で掘り下げる価値のある話だった.あっという間に時間が過ぎていった.
そういえば,ロゴの女の子は潤さん自身の子供の頃の写真だということだった.初見で感じた,パリでのショー開催とこのロゴの違和感もおそらく設計済みだったはず.今となっては,このロゴだからこそブランドの世界観が良く伝わると感じる.
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都市と空間とその使い方についてもう少し.香川県庁を設計した丹下健三と,時代を同じくする日本の戦後モダニズムの建築の多くには共通の理念が宿っている.それは戦後の民主主義の空間をつくる,という理想だ.人々が自由に集まり,語らうために,その使い方を委ねられた広い空間.おそらく,現代の建築で同じ空間を実現することは経済的にも民意的にもかなり難しいのではないだろうか.ある種の「時代性」がそこに宿っている.しかしながら,管理運営する役所側は,民主主義とはいえそう簡単にこの空間を市民の集会に利用されることは受け入れ難く,県の人に聞いても,おそらくこのような用途で香川県庁が使われたのは初めてではないかとのこと.
それだけに,今回の香川県庁ピロティ広場でのショーの開催は大きな出来事だった.おそらく,全国的に見ても稀な例だろうし,重要文化財である香川県庁だったことが大事だと思った.折にも,同じ香川県所有の,同じく丹下健三が設計した体育館(船の体育館)は解体の危機に瀕している.一方が輝く中で一方が消え去ろうとしている.このショーを見た人が建築や空間の持つ力について考えてもらういい機会だったことが僕の中で一番大きいのかもしれない.
都市の文化をつくるためには,街や建築が持つ空間をどのように活用するかが大変重要だ.特に公共空間という開かれた場所にどんな可能性があるかは,市民は使われて初めて理解できる.多くの人は,オリンピックや野球やサッカーで優勝したチームや個人が地元で凱旋パレードを開く映像を見たことがあるのではないかと思う.ほんのひと時かも知れないけれど,そこで目にした熱狂,活気,希望や感謝などが渦巻く「空間」は街のムードを創りだす.それがシビック・プライドと呼ばれるような価値に繋がるのだろうし,街とそこでの生活を楽しむヒントになる.
かつて,アメリカの建築家 ルイス・カーンは次のように述べている.
「都市とは、少年が朝出かけていき、夜には一生をかけて取り組む仕事を見つけられる場所だ」
“A city is the place of availabilities. It is the place where a small boy, as he walks through it, may see something that will tell him what he wants to do his whole life.”
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丹下さんはきっと喜んでいると思います,それだけは建築に関わる人間の端くれとしてどうしても伝えたかった,こんな空間を見せてくれてありがとうございました.それが僕が今回伝えたかったことのすべてです.そうお礼を言って,すでに営業時間を過ぎた展示即売会の会場を後にした.
そういえば,保多織の作務衣風のジャケットをオーダーするつもりで生地の相談までした.そのうちにアトリエにお邪魔して,オーダーの続きをしたいと思う.
boutique june / 吉原 潤: www.june-closet.com/
2025年11月1日,横川の裏通り,不思議な場所にオープンしたのは AU COFFEE CRAFT と名付けられた新しいスペシャルティ・コーヒー・スタンド.お店に立つのは,オーナーでありマスターである千代延さん.春に長く勤めた広告代理店を退職しコーヒー屋さんを開くことになった経緯は意外にも運と縁とタイミングと直感だったそうだ.
コーヒーに興味を持ち自分でこだわりを持って淹れ始めたのは5年位前かな,という彼.ではその運と縁とタイミングというのはどういうことだったのだろう.
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店は広島市西区横川.広島市民であればおそらく誰もが名前を知っている老舗の家具屋の大きなビルの片隅にある.その老舗の家具屋さんの空間ディレクションに最近関わり始めたのが広島を拠点とするデザイン事務所,ハンクラデザインさん.まずは1階の売り場のディレクションとコーディネートを任され,運営面なども併せて提案を求められその試行錯誤は現在進行形という.まずは,家具屋さんが面白く変化しているというPRを兼ねて,もともと家具屋さん自体が運営していたカフェの空間をリノベーションするのに合わせて別のコーヒーショップを入れることを提案.その時にハンクラデザイン側から声をかけたのがまだ広告代理店で働いていた千代延さんだった.もともとハンクラの寿美礼さんは千代延さんがデザイン学校で学んでいた時代の先生でもあり,その後も仕事などを通じてやり取りはしていたらしい.そこでコーヒー熱が高まり今後の人生をぼんやり模索していた千代延さんに「お店やってみる?」と寿美礼さんが千代延さんの心をつついたのが事のはじまり.
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そこから一念発起して脱サラから開業までの僅か数か月の変化とはどういったものだったんだろう.AU COFFEE CRAFT のインスタでその経緯が断片的に分かるのだが,きっとジェットコースターのような(今でも)状況だったのではないかというのは想像に難くない.ぜひ皆さんも直接マスターに聞いてみてほしい.
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そしてこのお店が面している場所/空間がまた独特である.実は,家具屋さんのビルのメインの入り口は北側の通りに面しており,カフェのあるのはその真裏側の広い平面駐車場に面した側.民間のランダムで敷地毎の小さな開発が断続的に行われてきた裏通りにありがちな古い低層の建物と大きなビルの裏側が取り囲んでいる.個人的にはこの都市開発上仕方なく生まれた広い空間の「裏庭」感がものすごく魅力的である.まだほとんど誰も知らないコーヒー屋さんがすごく広い駐車場を持っているように見えるアンバランスさも可笑しみがある.ビルの隙間からは川に面した土手沿いの緑も見える.実際,犬を散歩がてらよってくれるお客さんも多いので,犬と楽しめるテラス席もある.南側だから日当たりも良い.世界の裏側が急に表の世界に出てきた感じ.逆転の庭.
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お店の中はカウンター席と2,3脚の椅子と小さなテーブル席がいくつか,そしてワークショップもできる大きなテーブル席もあり,好きな場所でゆったりと過ごせる.奥には地元の作家やアーティストの作品の展示販売もある.ガラス作家の mglam さん,金継ぎ作家の tsukuroi のフクモトショウコ さん,15歳の絵描き iki さんという プロデューサー的な立場でもある寿美礼さんのセレクションによる商品が並ぶ.まだまだコンテンツは開発中かつ実験中であるという.話をしているとどうしても作戦会議のようになって,面白いアイデアが次から次に生まれてくる.まずは,本や音楽などコーヒーと相性のいいものを中心に何か一緒に出来ればいいねという話になったので,今後が楽しみ.
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相性がいい,というのは,AU(アウ)という店名のひとつのアイデアでもあるということだ.現在は3種類のコーヒーとそれぞれに合う(AU)小さなお菓子が添えられたメニューが中心.ぜひ,この裏庭のロケーションとコーヒーを味わいに立ち寄ってみてほしい.
AU COFFEE CRAFT https://www.instagram.com/au.coffeecraft/
展示販売テーブルの作品及び作家
iki:アーティスト https://www.instagram.com/e_no_iki/
mglam:ガラス作家 https://www.instagram.com/mglammm/
tsukuroi:金継ぎ作家 https://www.instagram.com/fukumoto.shoko/
ここでは,日常の中で見つけることが出来るデザインのエッセンスや,モノやコトへの視点がそれぞれの感性によって語られます.また,UNDESIGNEDを読みながら楽しんでもらうための素敵な音楽のセレクションも一緒に.毎回,UNDESIGNEDのメンバーやゲストの寄稿でアトランダムに構成します.
Here, the essence of design that can be found in everyday life and the perspective on things are talked about by each sensibility. Plus, with a good music playlist for you. Each time, it is randomly provided by UNDESIGNED members and guest writers.
毎回,音楽好きの仲間に「今」聴きたい曲やアルバムをセレクトしてお勧めしてもらいます.
We also recommends nice music which is selected by DJs or people who are loving music so much.
上の記事で触れた,AU COFFEE CRAFT のイメージに合わせたプレイリストを勝手に.というのも,実は千代延さんは私も学生時代に授業を担当したことがある間柄.権利の関係上,お店で流すことは出来ないのですがお店をイメージしながら皆さんに楽しんでいただければ.
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Team UNDESIGNED of this issue are...
Producer / Editor / Video Editor
Takashi Sasaki
大阪生まれ香川育ち.野球ばかりでデザインとは縁がなかったが,デザイン関連の取材を通して,その考え方やプロセスに惹かれたひとり.
Editor in chief /
Michiaki Nishio
広島生まれ.建築およびデザインと人間の接点から社会や未来を夢想するのが癖.普段は建築を軸にデザインの実践と教育に携わる.
Regular editor / Editorial designer
Maiko Teramoto
広島生まれ.素敵なものが,なぜ素敵なのかを考えがち.もちろんデザインでも.古今東西全ての本と映画を見漁るのが叶わぬ夢.
Correspondents /
Madoka Kikkawa
北海道生まれ広島育ち.デザインとアートの違いや通ずるものに興味を惹かれる.普段は人と関わりながら手を動かして写真を撮ったり商品を創っている.
Akane Mameda
Special thanks for this issue:
Supported by Anabuki Design College Hiroshima