「プハー! やっぱビール最高!」
ダムッ! とテーブルに荒々しくジョッキを置く。そして、桜の目の前で杏奈は気分よく叫んだ。
「あんまり無理しないでね~杏奈ちゃん」
「わーかってるわかってるー♪」
もう早速口調が変になっているんだけどね~、と呟いて、桜もビールを飲む。
ぷはー、と一息ついて桜もジョッキを置く。久しぶりに喉に流し込まれるお酒の感覚が懐かしい。
「ふぇー、ふぁふらふぁー」
「なに~?」
ビールのジョッキを置くと、向かいの杏奈が話しかけてきた。早速おつまみである枝豆を口に詰め込んでいる。
「ふぁんふぇふょうふょふいんっふぇ……」
「口にものがなくなってから話してよ~」
「いひいひふぉまふぁいま(いちいちこまかいな)~……んぐっ、ぷふぁー」
杏奈は枝豆をビールで強制的に流し込むと、頬をほんのり赤くして再び話し出す。
「なんで教職員って、こんなにハードなのぉー」
「仕方ないよ~、この国の未来を支えていく子供たちを育てる仕事だもん」
「それにしてもなんでこんなに休みが取れないんだぁー……」
あ、これはいつもの愚痴りだな~、と桜は思う。杏奈の性格を、高校時代から仲がよい桜はよく知っている。彼女はお酒にあんまり強くないくせに酒を結構飲み、そして酔うとひたすら愚痴を言いまくるのだ。
そんな杏奈に、桜は付き合う。杏奈の愚痴は自分のストレスにならないように適当に聞き流していく。それでいて、酔っている杏奈は聞き流していることに全く気づかない。二人はお酒の席でも上手に付き合っていた。
「だいたい! プレ金プレ金世間では言ってるけど! 教師はそんなの関係ない!」
「うんうん、わかるよ~」
「それに、明日は部活の監督だしー、実質週休一日だしー。なんで、休みが、出ないんだぁぁァァ……」
ぁぁぁぁ……と突っ伏す杏奈。既に真っ赤になっている。ビールはまだ缶一本分くらいしか飲んでいないのだが。桜はまだまだ全然平気だ。
「もうひょっと(もうちょっと)、ほのふにには(この国には)、ひょういんふぁ(教員が)、らふれきるせいろをるくるふぇきらぁ(楽できる制度を作るべきだぁ)……」
「うんうん……」
それからちょっとの間は、杏奈はまだもごもご言っていたが、そのうち反応が無くなった。どうやら完全に酔いつぶれてしまったらしい。
「……もうそろそろ、家に帰りますか……」
桜は残ったビールを一気に飲み干し、おつまみを片付ける。本当ならまだまだいけるところだが、相方が酔いつぶれてしまった以上、もう飲む意味もないだろう。
桜は立ち上がると、向かいの席の杏奈を揺する。
「杏奈ちゃーん、起きてますか~?」
「ぅぅむ……さくらぁ~」
「はいはい、立ち上がりますよ~」
桜は杏奈の腕を自分の肩に回すと、よっこいしょ~、と立ち上がる。この状態では、杏奈はお金を財布から取り出すこともできないだろう。
また奢りになりますね~、と思いつつ、桜は会計へと向かった。