「ふわ~」
今日も一日、ゆる~い感じで帰りのSHRを終えた桜は、一年C組の教室を出る。
廊下は生徒で溢れかえっていて、とても賑やかだった。クラスによってSHRを終える時間に差があるので、早く終わったクラスの生徒は、友人と一緒に帰るため、他クラスの教室のドアの前に固まるのだ。
桜が担任をしている一年C組は、今日金曜日は彼女の都合上、たいてい一番乗りで終わる。だから、廊下待機組の生徒はC組が圧倒的に多かった。
桜は欠伸をしつつ、出席簿を抱えて廊下を進む。生徒が帰った後も、先生には仕事が山積みなのだ。部活の監督、次回の授業に向けての準備、課題提出状況のチェック、プリントの作成……挙げたらきりがない。
そのせいで、彼女はもう二日間満足な睡眠をとれていない。ただ、今日を乗りきれば休日になるので、もうひと踏ん張りだ。
今日は月末の金曜日。世間では「プレ金プレ金」と言われているけど、実際にその恩恵を受けている人はいるのかな~? と桜はいつも思っている。
すると、目の前の教室のドアがガラガラと開く。ちょうどそのクラスもSHRが終わったらしい。そして、姿を現したのは、もちろんそのクラス――一年B組の担任。
彼女は桜を見るなり、うーす、と気だるげな声で話しかける。
「お疲れー」
「お疲れ様です~」
二人は並んで廊下を歩き、そして階段を下っていく。
「そういえば桜ー」
「も~学校では名前で呼ばないでくださいよ~丹羽先生~」
「へーへーそうでしたね堀河せんせー」
彼女たちはあくまでも軽い感じで会話をする。
いくら同期で同い年で高校時代からの付き合いだとしても、公私はきっちり分けなくちゃ、というのが桜の持論だ。ゆるそうに見えて意外としっかり者である。
「で、今夜飲みに行かない?」
「今夜かぁ~」
ん~どうしよっかな~、と桜は指を顎に当てて考える。
彼女は別に禁酒中でもないし、飲めないわけではない。今夜は特に予定は入っていなかったはずだ。
それに、最近飲む機会がなくて、お酒からずいぶん離れてしまっていた。別に今日くらいは飲んでも大丈夫だろう。久しぶりだし。
というわけで。
「うん、いいよ~」
「おっしゃー、久しぶりのさく……堀河先生との飲み会ー! あ、ドタキャンは無しだぞ」
「わかってるわかってる~」
それにしても、学校の階段でこんなことを話してもいいのだろうか……。あまり未成年の生徒たちに聞かれてもいい話ではないのだが。
まあ、もうしちゃった話だし別にいっか、とすれ違う生徒と挨拶しながら、桜は考えるのをやめる。やっぱりゆるいのだった。