「おーい、こっちだぞー!」
「フンフツィヒ・シュツルム、レーゲンパラスト……これで役者は揃った……」
「遅いわよ、二人とも!」
三月三十日金曜日。川沿いにある近所の公園に、俺と五十嵐はいた。指定された集合場所に到着すると、既にもっちー、水無瀬、アリスの他の三人は到着していて、桜の木の下、大きく広げたレジャーシートの上で、花見の準備を始めていた。
「すまんすまん、皆もう来てたか」
「ごめんね、遅れちゃった」
俺たち二人は靴を脱いで、レジャーシートに上がる。荷物を降ろして端に寄せていると、水無瀬が口を開いた。
「フフフ、我、時を駆けしヴァイオレント・ウォーターレスシャロウより皆の者に土産がある……」
そう言って、水無瀬が自分のバッグから取り出したのは、デカい箱。表には何やら文字が書かれているが、ドイツ語なので読めない。
「おお、これは期待だな!」
「じゅるり」
「楽しみ~!」
この前の旅行のお土産か! 終業式のときに、お土産を買ってくる、って宣言していたもんな。中身はいったい何だろう? 既にアリスは食べ物だと思っているみたいだが……。
「いざ、封印解除!」
謎の掛け声とともに、水無瀬は勢いよく蓋を開いた。
箱の中にあったのは、個包装のチョコレートだった。
「食べていいのか?」
「当然」
「ん~~美味しい!」
水無瀬がそう言う前から、アリスは早速チョコレートを口に入れていた。そして、目を輝かせながら感想を漏らしていた。
俺も一つ手に取って口に入れる。
「……美味い」
確かに美味い。日本の市販のチョコレートとはまた違った風味がする。
皆も同じような感想を抱いたのか、チョコレートを取る手は止まらず、あっという間に箱の中身は空になってしまった。
たが、皆が持ち寄って来たお菓子を次々と開けたため、お菓子が無くなることは無かった。そのまま、誰かが宣言することも無く、お花見が始まる。
皆で飲み食いしながら、色んなことをあーだこーだ言って、桜の花びらが舞い散るのを眺める。この、何でもないような時間がとても愛おしいと、俺は会話の合間に、ふとそう感じた。
「ありゃ……もうないのか」
どれくらい時間が経っただろうか、ふと紙コップを持って飲み物を飲もうとしたが、水滴は落ちてこなかった。辺りを見渡すと、ジュースのペットボトルのほとんどが空になっていた。
これからまだしばらくは花見を続けるだろう。俺は、立ち上がって皆に一言断る。
「ちょっとジュース無くなったから、買ってくる」
「わり、頼んだ慧」
「おう」
もっちーの声を背に、俺は財布を確かめながら靴を履くのだった。