気がつくと、俺は元の場所に戻っていた。墓石がたくさん立っていて、山々に囲まれた霊園のど真ん中。春の青空が広がっている。
「うううううう……っ!」
そして、目の前にはうずくまって苦しむ五十嵐の姿。俺が白い部屋に飛ばされた時と同じ状態だった。神の『元の世界の時間軸からは切り離された、ちょっと特殊な世界』という言葉は本当だったのだ。
しかし、うかうかしてはいられない。このままでは、大変なことになるのは分かっている。だから、俺は行動しなくてはならない。
そして、何をするべきなのか、俺は既に知っている。
「ぐっ……!」
五十嵐の背中から放たれる凄まじい光と、裸のまま放出されている、エネルギーの強大な奔流に抗って、俺は一歩一歩、彼女に近づいていく。
たった数歩、されど数歩。僅かな距離が無限大に感じる。
そして、俺はやっと彼女の下に辿り着く。そして、俺は五十嵐を抱きしめた。
「ああ゛あ゛っっっ! ……ぐぅうううっっっ!」
彼女はなおも悶え苦しむ。彼女から放たれる圧がさらに強くなって、俺は吹き飛ばされそうになるが、俺は負けるものか、と、より強く抱きしめる。
そして、五十嵐の苦しむ声に負けないように、俺は腹の底から声を絞り出して、叫んだ。
「聞いてくれ! 俺は、お前のことが好きだ!」
心の底から湧き上がる感情を、腹の底から絞り出す声に乗せて口に出す。
「これまで色々あったけど! やっぱり、俺はお前が好きだっ! 好きだ! 世界で一番大好きだっ!」
これが俺が出した答えだ。先ほど、神は五十嵐の中には光の魂が残っていて、それが、五十嵐――セラフィリが苦しんでいる原因だと言った。そして、光の魂には、俺への恋慕が詰まっている、とも言った。そして、神はそれを解消しようと、あの手この手を打っていた。
つまり、この恋慕の感情を解消しなければならない。ならば、俺の取れる方法はただ一つ。
その恋を成就させればいいのだ。
だから、俺は叫んだ。光への、愛の告白を。あの日果たせず、後悔した、想いをぶちまける。
あの日永遠の別れを告げた光が、その一部だけでもこの世界に戻って来て、今目の前にいる。これは奇跡以外の何物でもない。目の前の五十嵐を救うため、そして俺の最大の後悔を挽回するため。俺はただ希う。
お願いだ! 届いてくれ……!
次の瞬間、俺の背中に何かが回る感覚。そして、ギュッと体が抱きしめられる。
そして、耳元で一言。
「慧君……ありが、とう」
その声は、間違いなく、光のものだった。
刹那、彼女の背中から溢れ出ていた白光がひときわ強くなったかと思うと、急激に減衰した。同時に彼女の背中から生えていた白銀の翼、そして頭の上のリングも、光の塵となって霧散する。
そして五十嵐は、力を失って、俺の腕の中に体重を預けてきた。