この一言で、ようやく、五カ月来の疑問が解決した。あの日、天使セラフィリが俺を殺しに来たのは、セラフィリの中にある、光の恋慕の感情を消そうとしていたから、だったのか。
しかし、まだ全ての疑問は解決されていない。それならば、どうしてその日のうちにセラフィリは許嫁と偽って俺の家に押し入って、家族を洗脳したのだろうか? 恋慕の感情を消そうとするだけなら、そんなことをせずともいくらでも俺を殺すチャンスはあったと思うのだが。
「しかしながら、セラフィリは失敗した。君を殺すことにね。ただそれは非常に不可解だった。弓の扱いが非常に上手いセラフィリが失敗することはありえなかったからさ。だから、僕は何か別の原因があると思って、彼女を調べてみたのさ。そしたら……」
「そしたら?」
「セラフィリに取り込まれた五十川光の魂の想いは、相当強いらしい、ということが分かったのさ。そして、それは既にセラフィリにすっかりくっついてしまっていて、分離するには既に手遅れだったのさ。だから、君を殺せなかった」
あの時、セラフィリに殺されないように、光が俺のことを守ってくれた。神の言葉を聞いて、俺は何となくそんな気がした。
「それに、恋慕だけではなく、彼女の記憶も一部セラフィリに混じってしまったみたいなんだ。君も不思議に思わなかったかい? セラフィリが妙に君の家に詳しかったり、君の家の周辺に見覚えがあると言ったりしなかったかい?」
「……あ」
そういえば、俺の部屋のエロ本の隠し場所を、アイツは何故か一発で当てていたよな……。あれは光にしかバレていなかったのに、何故知っていたんだ⁉ と思っていたが、こういうことだったのか。それに、行ったことのないはずの通りのコンビニが変わっていたことも気づいていた。
「だから、僕は作戦を変更したのさ。どうにかして恋慕を消す必要がある。だったら、成就させてしまえばいい! ってね」
「……だから許嫁として俺の家に送ったんですか?」
「その通りさ」
これで、残った謎も解決した。電車で一緒に帰ったあの時、『神からの不可解な命令』と五十嵐が言っていたのはこういう背景があったからなのか。
「まぁ、色々とめんどくさいこともあったよ。突然変異なのか知らないが、君の友人には時間軸を操る能力を持つ人がいてねぇ……だいぶ厄介だったな」
タイムリープ能力を持つ水無瀬のことだ。神から厄介者扱いされているとは……水無瀬が聞いたら喜んで中二病のネタにしそうだ。
「それに、ミカエルもセラフィリ大好き天使だから、許嫁に行ったと言ったらわがままを言ってセラフィリの元に向かいたいと言い出す始末だし……全く困ったものだよ~ははは」
これで、おおよその真実を知ることができた。だが、俺はまだ当初の目的を達成できていない。元の場所に戻り、苦しむ五十嵐を救うことだ。
幸いにも、目の前には天使のエキスパートがいる。作った張本人ならば、この事態の解決法を知っているはずだ。
「……それで、俺は五十嵐……セラフィリを助けなきゃいけないです。あいつには今、何が起こっているんですか?」