「天使に補給する人間の魂は、死んだ直後の人間のものしか使わないんだ。そもそも人間の魂は弱くて脆い。死んだ直後のものじゃないとあっという間に拡散して、使い物にならなくなってしまうからね」
神の話によると、人間の魂というものは実在するらしい。つまり、俺の中にも魂が存在する。俺はそういうオカルティックなものはあまり信じないのだが、神からあると言われると、本当にあるのかもしれない、と不思議な気持ちになる。
「人間の魂には、普通は『何もない』んだ。例えるなら、ほとんどの魂が死の直後は、『無色透明』になって出てくるんだ。ただし、稀に『色がついたまま』出てくるものがある。例えば、死ぬ直前に何かを強く後悔していたり、何かを強く恨んでいたり、そういう非常に強い気持ちを抱いたまま死んでしまうと、それが魂に残ってしまう。そういう魂を天使が吸収してしまうと厄介なことが起こるのさ」
「厄介なこと?」
「そう。簡単に言うと、それによって天使の人格が変わってしまうのさ」
神は続ける。
「天使は基本的に無色透明の人間の魂を加工したものでできていて、同じく無色透明の魂を吸収することでエネルギーを補給している。だから、純粋でない人間の魂を吸収してしまうと、たちまち人格などに様々な影響を及ぼしてしまうのさ。ちょうど、無色透明な水に黒いインクを一滴たらしたら、それが拡散して色水になってしまうようにね」
なるほど……。神が何を言いたいのか分かってきたぞ。
「……つまり、セラフィリは魂を補給するときに、何か強い念がついたままの魂を吸い込んでしまった、っていうことですか?」
「そうそう! そういうことさ」
そして、そのままこう言い放った。
「そして、ある時セラフィリが吸い込んでしまった魂というのが、君の幼馴染である五十川光の魂だった、っていうことさ」
「……光の?」
「そう。その魂には何が詰まっていたと思う?」
「…………」
「君への恋慕さ」
「恋慕?」
「そう! よかったね~、君はその子に好かれていたんだよ!」
光が俺のことを好きだった? 衝撃の事実に、俺の思考は止まりかける。
光は俺のことが好きだった。そして俺も光のことが好きだった。
……つまり、俺たちは両想いだった、のか。
その事実にしばし呆然としていると、それに気づいていないのか神は続ける。
「だけど、僕らにとってはその感情は邪魔だった。何故なら、無色透明じゃない魂は天使の性格に大きく影響を及ぼしてしまうから。結論から言うと、その子の魂を吸収したセラフィリは、『恋慕』という感情によって大きく能力を落とし、任務に支障をきたすことになってしまった」
両想いだった、という事実が頭の中をぐるぐると回っている俺をよそに、神は更に饒舌になる。
「このままではいけない。どうにかして、セラフィリの中にある恋慕を解消しなければならない。ならば、自分の手で自分が好きな相手を消して、恋する対象を無くせばいいんじゃないかってね。僕はそう思って、セラフィリに命じたのさ」
神は一呼吸おいた。
「雨宮慧を殺すように、ってね」