五十嵐がかつて言っていたが、天使セラフィリやアリス……天使ミカエルの親玉は『神』だった。今、俺の正面にいる存在、今から五十嵐の正体を話す、と言ったこの人物こそが、その『神』なのか。
俺が黙っていると、神は饒舌に喋り始めた。
「そもそも、『天使』とは何か、というところから話そうか」
天使……。俺が会ったことのある天使は、まさに俺のイメージ通りの見た目をしていた。翼が生えていて、謎のリングがついていて、ピカーって光っていて、そして弓矢を持っていた。超常的な力を用いて、この世の理を無理矢理捻じ曲げることもしていた。
「天使とは、ざっくり言うと、僕の手先さ」
「手先?」
「そうさ。そもそも僕は高次元の生命体だから、君たちの三次元世界に干渉することは容易い。それこそ、君たちが二次元の平面世界を自由に弄れるようにね」
「…………」
「ピンと来ないかな? まあ、とにかくだ。僕が直接三次元世界に干渉すると、少しやりすぎてしまうんだ。力加減を少し間違えたら、それこそ君たちの世界が吹っ飛んでしまう」
「世界が吹っ飛ぶ……」
パワーワードすぎる。ニコニコしているばかりの人物が発言しているのでとても本気に感じられないが、事実なのだろう。
「だから、三次元世界に干渉するための専用の『道具』として、三次元ベースまで落とした『天使』を作り出したのさ。それが、セラフィリとか、ミカエルとかというわけさ。分かった?」
「はぁ……分かりました」
「それで、いくら僕でも無から有を作り出すことはできない。当然、天使を作るのに素材は必要だ。だから、僕は天使を作り出すために、君たち人間を利用したのさ」
「……ということは、天使は元は一人の人間だった、ってことですか?」
「いやいや、一人の人間ではないよ。沢山の人間の魂を、僕の世界が持つ加工技術でちょちょっと弄って作っただけなのさ」
「……」
つまり、五十嵐は、元は人間の魂を加工して作られた、ということなのか……?
「こうして作った天使たちを、僕は君たちの世界に放って、色々とコントロールしていたのさ。それこそ、数千年前、君たちがまだ文字を持たない時代からね」
「もしかして、今世界に残っている都市伝説は、天使たちの活動によって生まれたっていうことなんですか……?」
「んーまあ、そのうちのいくつかはそうだろうね。ただ、個別の細かいことなんて、いちいち把握してられないからな~」
神はめんどくさそうにそう言った。人間の活動なんぞ、この神にとっては、きっと『人間が何かをやっている』程度にしか思っていないのかもしれない。
「それで、だ。当然、活動するためにはエネルギーが必要さ。当然、天使たちも定期的に補給する必要がある。さて、何を補給すると思う?」
突然のクイズ。そう言われてもさっぱり分からない。天使のエネルギー源? いったい何だろう? ただ、ここで迂闊に変なことを答えるわけにはいかない。不正解したら、最悪死ぬかもしれない。
俺が黙っていると、クイズを出したことなんて気にしていないかのように、神は正解を明かした。
「正解は、人間の魂だよ。人間の魂で作ったんだから、同じものを補給しないと、その存在を保てないんだよね」
「はぁ……」
「それで、セラフィリにも魂の補給を行うんだけど、ある時、事件が起きたんだよ」