突然倒れた五十嵐。俺と同じように黙って墓参りの手順を踏んでいるものだと思っていたが、そうではなかった。
思い出されるのは霊園についたときの五十嵐の様子。どこか具合が悪そうだった。もしかしたら、その時点でだいぶ無理をしていたのかもしれない。そこで引き返すべきだったか。
そんなことを考えている間にも、五十嵐はどんどん苦しそうになる。俺の頭が真っ白になる。こういうとき、俺はいったい何をすればいいんだ? 何かの病気? それとも精神的なもの? 対処法が全く思いつかない。
とりあえず、俺はかがんで五十嵐の背中をさすろうとする。そして腰を低くして、声をかけようとした次の瞬間。五十嵐の背中から突如まばゆい光が迸った。
「ううぅっ!」
ひときわ苦しそうな声をあげた途端、彼女の背中からは一対の金色の光が出現する。そして、その光の中で、大きな白銀の翼が形成された。
この翼……。見覚えがある。今からおよそ五カ月前。五十嵐と初めて会った時……まだ天使セラフィリと名乗っていた時に、背中から生やしていた翼、まさにそれだった。
何かを考える暇もなく、次に変化が起きたのは彼女の頭上だった。
そこにも光が集まり始めたかと思うと、次の瞬間、光の輪が出現した。蛍光灯の何倍も明るく、そして純粋な色の光を放っている。間違いない、これも初めて会ったときに頭上に頂いていた天使の輪だ。
そして、五十嵐を中心として、その後ろの景色がぐにゃりと歪む。まるで、空間が何か大きなエネルギーによって無理矢理捻じ曲げられているような、そんな印象を受ける。同時に、アリスがしばしば放つ、あの禍々しい雰囲気も感じる。
これらのことから分かることは一つ。五十嵐が、天使の状態に戻りつつある。
しかし、五十嵐は天使の力を既に失ってしまったのではないのか? かつて本人がそう言っていたのだから間違いないはずだが。それに、何故このタイミングで天使の状態に戻っているのか? 俺も五十嵐も特別なことは何もしていない。いったい何が引き金でこうなってしまったんだ?
しかしながら、考えてもこの場で答えが出るわけでもない。
そんな中、俺は五十嵐の苦しそうな声で再び現実に引き戻される。
「ううぅぅうう、ああぁぁあああああああ!」
彼女を取り巻く光はますます強く、そして空間の歪みはますます酷くなる。俺はやっと、五十嵐が大変なことになっていることを認識した。