俺は、遂に、二年ぶりに五十川光と対面した。
確かに、墓石には『五十川家之墓』と彫られている。この下に、光がいる。
しばらく俺は無言で突っ立っていたが、何も起こらなかった。
俺が墓の前に立ったからといって、光が墓から復活して俺と言葉を交わすことも、天から光の声が降り注いでくることもない。二年前のこの日、確かに光は死んだからだ。
俺の心もまた、驚くほど平静を保っていた。ここに立つ前までは、きっと墓の前に立ったら二年前の日のあの光景がフラッシュバックして、パニックになってしまうのではないか、もしかしたらそもそもここまで辿り着けないんじゃないか、という恐れや、ただ泣き叫んでどうしようもなくなってしまうのではないか、という不安を抱いていた。
しかし、いざこうして立ってみると、そのようなことは全く起こらなかった。
日日薬(ひにちぐすり)という言葉がある。俺があの時、変わろうと決意したときから、俺の知らない間に、時間の流れが俺の心を癒していたのかもしれない。
俺たち以外にも、最近誰かがここを訪れたようで、まだ色を保ったままの花が花立てに入っていた。家族なのか、それとも俺のような親しい人なのか、そもそも光に対しての墓参りだったのかは分からない。ただ、俺はその事実が、この世界から光が消えていない証拠であるように感じられた。
俺は、墓参りの手順に従って、持ってきた線香に火を灯す。そして、同じく持ってきた花を、花立てに供えて、手を合わせた。
光は今、何をしているだろうか。天国という世界で平和に暮らしているのだろうか。痛みも苦しみも悩みもなく、安らかにしているだろうか。人間の勝手な想像でしかないことは分かっているが、そうあることを願わずにはいられない。
俺は、後悔まみれだ。光のことを思い出さないようにしていたこと、ここに来られるまで二年もかかってしまったこと、そしてあの日、咄嗟に行動して守れなかったこと……。数えだしたらキリがないくらい、後悔している。
もし、今、光に一言だけ、俺から言葉を届けられるとしたら、きっと俺は一番後悔していることを伝えるだろう。あの日言いそびれた、自分史上最大の後悔。
光、君が好きだ。
次の瞬間、ドサリと俺の隣で音がした。
「うっ……ううぅ……」
そこには、地面に膝をつき、頭を抱えて呼吸を荒げている、五十嵐の姿があった。