水無瀬と五十嵐にホワイトデーのお返しを渡した後、教室の外を偶然通りかかった湯崎にも、小さいながらクッキーを渡して、義理チョコのお返しをする。
こうして、ホワイトデーのお返しミッションをクリアし、俺たちは帰宅した。
そして、昼飯を作って二人で食べていると、姉ちゃんが帰ってきた。
「ただいま〜」
「お帰り」
「お帰りなさい」
姉ちゃんはちょっと疲れた様子で、リビングに入ってきた。
やはり、生徒会長として卒業式で式辞を読む時には相当のプレッシャーがかかっていたのだろう。
「ご飯できてるから」
「は〜い」
姉ちゃんは自分の分を台所から取ってくると、俺の隣に座って食べ始める。
「ところで、ひかりちゃん」
「はい」
「慧からホワイトデーのお返しは貰った?」
「貰いました! 手作りのクッキーでした!」
「ならよかったわ〜。だから大丈夫だって言ったのよ」
「こういうことだったんですね」
なんか俺だけ蚊帳の外になっていないか? 一人だけ話についていけない俺は、二人に尋ねる。
「……五十嵐は姉ちゃんに何か話していたのか?」
「ん〜、昨日ね、ひかりちゃんが、台所に入ろうとすると慧に怒られるんだけど、心当たりはありませんか? って相談しにきたのよ」
「そうだったのか……」
「それで、私はホワイトデーのお返しでも作っているんじゃないかな〜と思ったから、心配しないで、って助言をしてあげたのよ」
なるほど……。どうやら、俺の思っていた以上に、俺は五十嵐を不安にさせてしまっていたらしい。
「もう、人に心配させるようなことはしちゃダメよ、慧」
「悪かったよ……」
それにしても、五十嵐の話を聞いただけで、俺の企みを一発で見破るのは、さすが姉ちゃんである。何でもお見通しなんだな。
「それにしても〜」
「ん?」
「私へのお返しはないの?」
「……あるよ」
「さっすが慧! お姉ちゃん思いなのね〜」
「ただ貰った人に返しているだけだ」
ただ、姉ちゃんがくれたバレンタインチョコは、カカオ九十九パーセントとかいうイカれた苦さのやつだった。だから、こんなほぼ劇物のようなものを寄越してきた姉ちゃんにはお返しをしようかどうか、正直迷った。だが、肉親だし、それに貰ったことには貰ったので、きちんと筋を通すべきだと思い、一応用意したのだ。
「はいこれ」
「おーやったー!」
クッキーの入った袋を受け取ると、姉ちゃんは無邪気に喜ぶ。
「一つ食べてもいい?」
「ああ」
早速姉ちゃんは袋を開けると、一つ口に頬張った。
ここで、俺は言い忘れていたことを一言付け加える。
「そういえば、このクッキー、一つだけめっちゃ辛いのあるから気をつけて」
「……先に言ってよー!」
顔を真っ赤にした姉ちゃんは、勢いよく立ち上がると、水を求めて洗面所へと駆け込んだ。