水無瀬の誕生日パーティーの三日後。三月に入るもまだ二月の寒さを引きずっている。俺も水無瀬の一件を若干今でも引きずっている。だが、三日経った今ではだいぶ飲み込めた、とは思う。
今日は学年末考査初日だ。
学年末考査は、高校に入ってから経験したこれまでの四つの定期試験とは一味違う。これまでよりも試験間隔が空いているので、その分範囲が広い。しかも、学年末ということもあって、一年生で習った範囲の総復習という位置付けの試験だ。
後ろの席の五十嵐は教科書もノートも開かずに、呑気に鼻歌を歌っている。隣の席の水無瀬は目を閉じて瞑想か何かをしている。
「お前ら余裕そうだな……」
「そりゃ、しっかり勉強してきたからね!」
「我の手にかかればこのような些事に過ぎぬ」
いーなー羨ましいー。俺もそのくらい心の余裕を持ちたいものだ。
「よーし、それじゃ、試験を始めるぞー」
予鈴が鳴ると同時に、教室前方のドアから丹羽先生が入ってきた。一斉に教科書をしまい、クラス全体が試験を受ける体制になる。
問題用紙が前から回ってきて、目の前に置かれる。緊張の瞬間。
「試験開始!」
チャイムと同時に、一年生最後の定期試験が始まった。
☆★☆★☆☆
「お、終わった……」
土日を挟んで水曜日の六日。回収した問題用紙を抱えた先生が教室から出て行った直後、俺は思わず安堵のため息を漏らした。
いやー、今回の学年末考査は過去イチでキツかった! 範囲は広いし、問題は難しいし……。しっかり勉強したつもりだったのだが、本当にできている気がしない。学年末考査、半端ないって!
しかし、これを乗り切ったので、しばらく試験はやってこない。あと少し学校に行けば、一年生が終わり、待ちに待った春休みがやってくる!
皆、俺と同じことを思っているのか、教室の空気はどこか浮かれている。今日は試験が終わったら自由解散なので、早速遊ぶ約束をして教室から出ていくクラスメイトもいた。
そんな中、もっちーが俺たちの方を向いて、突然提案をしてきた。
「なあ、皆で今度、花見にでも行かねえか?」
「花見?」
五十嵐が不思議そうに尋ねてくるので、俺は小声で補足説明をする。
「花見っていうのは、咲いている桜の花を見ながら、皆で飲み食いする宴会のことだ」
「へぇ〜、楽しそう!」
五十嵐は乗り気だ。
「だが、桜はいつ咲くか我を以ってしても分からない……」
水無瀬がそう呟いた。確かに、まだ桜は咲いてすらいないし、咲く気配すら見せない。それに、桜の開花は、年によってだいぶ差がある。二週間くらい差があることもあるのだ。
「ま、日程は後で連絡するよ。春休み中とかでいいだろ」
「あたしも行くわ!」
アリスも五十嵐が参加すると聞いて、飛びついてきた。ホント、お前って五十嵐が好きなんだな……。
「それじゃ、メンバーはオレ、慧、五十嵐さん、アリスさん、水無瀬でいい?」
「おう」
「じゃあ、時間は春休み中のどこか、詳しい時間と場所はまた後で連絡する、ということで」
というわけで、皆でお花見をすることになった。