友人が事故死した。
少女と一番仲がよかった、彼女だった。
少女はすぐに行動を起こした。タイムリープをして、彼女が事故に遭わないようにあらゆる策を講じた。しかし、何度繰り返しても、まるで見えない何かに操られているかのように、彼女は同じ場所、同じ時間で事故に遭って死んだ。
これまでの法則に完全に反している状況に、少女は混乱した。それでも、やり直した。彼女が死ぬ、という最悪の結末を回避するために。
そして、少女はもう、その日に戻れなくなった。十回タイムリープをして、あらゆる手を打ったものの、盤上をひっくり返すかの如く、それらは悉く全て破壊された。
少女は後悔した。何故なのかと、理不尽さを呪った。
それでも誓った。たとえ結果として上手くいかなくても、次こそは、大切な人をこれ以上失わないように、最善を尽くす、と。
やがて、中学校を卒業し、少女は高校生になった。
高校という新しい環境。少女にとって、それはストレスだった。
これまで以上に対人関係が広がる。必然的に、大切な人も増える。また、同じようなことが起こって、そして失敗してしまったら……そう思うと、何もできなくなった。かつての内気な自分が、ペルソナの隙間から滲みだして、少女は学校から足が遠のいていった。
それでも、高校に在籍するために、家では独学を積み、定期試験は受けに行くようにしていた。
そんな少女に転機が訪れる。
少女の、中学時代からの友人の一人の、許嫁がいつの間にか転入していた。
実のところ、少女はその友人に許嫁がいたかどうかはあやふやだった。そういうものだったのか、と受け入れるにしても、少女には少し違和感と嫌な予感がした。
そして、その嫌な予感は的中した。
それから少し経ったクリスマス。その許嫁は事故に遭って死んだ。少女はすぐにやり直した。事故は防ぎきれなかった。だが、死んだのは許嫁ではなく、友人だった。やり直した。友人が死んだ。やり直した。友人が死んだ――
少女はやり直すたびに記憶を引っ張り出してノートに綴り、対策を考えた。あの日の再来になるかもしれない、という恐怖に飲み込まれそうになりながらも、何度もやり直した。そして、遂に十回目。二人は助かった。
しかし、これで終わりではなかった。翌々月、今度は二人に不可解な事故が起きた。かつての中学校で起こった、大規模な爆発事故。少女は二人がそこに行くのを阻止すべく、また何度もやり直した。これも十回目に、何とか事故を回避することができた。その回、爆発事故は何故か起こらなかった。
少女は、今も、タイムリープをしている。
☆★☆★☆
「……」
「……分かった」
俺は黙ったまま、それだけ言った。
言われなくてももう分った。いつも中二病なのも、いつもカラコンをしているのも、あの時遊園地にいたことも、そして体を張って俺たちの行先を塞いでいたことも。
あまりにも現実離れした話だ。そうそう信じられるものではない。しかし、俺に天使が舞い降りた。天使が俺を殺しかけた。世の中には、非現実的なわけの分からない超常現象があるのだ、と俺は理解している。だから――水無瀬の話も、そういうことなのだろう。
「……もう俺は行く。夜も遅いからな」
「待って」
「なんだ?」
俺は振り返った。
「……本当はこんな事言いたくないのだけど」
そこで水無瀬は一旦言葉を切る。
「フンフ……いや、五十嵐ひかり。彼女に、よく注意して」
注意……どっちともとれる言葉だ。五十嵐を気にかけてと言っているようにも聞こえるし、五十嵐を警戒しろ、と言っているようにも聞こえる。
この前、アリスにも同じようなことを言われた。五十嵐に何かが起こる、と。何が起こるかは分からない。
「分かった……そうだ」
俺は最後に、水無瀬に問いかける。
「今、何回目だ?」
「……十回目」
「そうか……。じゃあ、また明日、学校で」
「……うん」
俺はその場から立ち去ろうとして、あることを思い出して足を止めた。
カッコ悪いなと思いながら、水無瀬の方を振り返り一言。
「悪いが、出口まで案内してくれないか……?」