あるところに少女がいた。少女は家が裕福だった故、暮らしに不自由することは無かった。また勉学の才があった故、勉強に不自由することも無かった。だが、少女は内気な性格故、友達と呼べる存在はいなかった。それ故、学校ではいつも独りで過ごしていた。いつしか、少女は寂しさを紛らわすように一人妄想に耽るようになり、妄想で塗り固められたペルソナを被るようになった。
しかし、ある日、少女に初めての友人ができた。同級生の女子で、その名の通り、光り輝くような性格だった。一人ぼっちで近寄りがたい雰囲気を醸し出していた少女に、彼女は臆することなく、そして性懲りもなく話しかけた。
ある時、少女は彼女に何故、話しかけてくるのか尋ねた。彼女は他にも沢山の友人がおり、少女に話しかける時間を、他人と話す時間に使えば楽しい時間が過ごせるはずなのだ。それに対して、彼女は不思議そうに答えた。『私は貴女のことが気になって、友達になりたいから話しかけているんだ』と。
その日、少女は、彼女と友人になった。彼女を通じて、他にも友人ができ、異性の友人もできた。少女は、最早、学校で一人ぼっちではなかった。
そんな少女には一つ秘密があった。友人にも、そして家族にさえも話すことができないような、秘密があった。
気付いたきっかけはほんの些細なことだった。まだ幼かった時、父の部屋に興味本位で忍び込んだ少女は、部屋に飾られていた壺を割ってしまったのだ。貴重な美術品でもあり骨董品で価値のある品を台無しにしてしまった少女には、当然父の怒りが下った。少女は後悔し、一日中、『時間が巻き戻せたら良いのに』と思いながら過ごしていた。
そして、眠りにつき目を覚ました少女に、望み通り明日は訪れなかった。
一度経験し、もう二度と来ないはずの同じ日が繰り返されたのだ。
少女は壺を割る未来を回避することができた。しかし、少女の体にはその代償が現れていた。
元々、普通の、真っ黒だった瞳は、両目とも紫に変わって、元には戻らなくなっていた。
少女は親と幾つもの病院を回った。しかし、原因は分からずじまい。それに、現在の科学では元の瞳に戻す方法は無いと、医者には宣告された。
瞳の色が周りとは違うことは、いじめの原因にもなる。少女は、自分の瞳の色を隠すために、『黒のカラーコンタクト』を着用することになった。
賢い少女は、もし自分の本当の瞳の色が明らかになったら、と危惧した。そこで、少女は妄想で塗り固められたペルソナに『中二病』という要素を注入し、中学入学と同時にそのように振る舞うようにした。
同時に、少女はタイムリープが起こる条件を調べた。何度も条件を変え、繰り返し実験した。
その結果、日付が変わる瞬間に、ちょうど二十四時間だけ巻き戻ること。自分が行動を起こさない限り全く同じ日になること。同じ日を繰り返せるのは十回までであること。そして、自分が、一日をやり直したいと強く願ったときだけ、タイムリープできることが分かった。
少女は自身のタイムリープ能力を存分に活かした。何度も繰り返して楽しい瞬間を味わい、何度も繰り返して勉強時間を増やし、何度も繰り返して嫌なことを回避した。
このまま能力を活かして、少女は順風満帆な生活を送っていくはずだった。
友人が事故で死ぬまでは。