五十嵐に抱き着いてきたのはアリス。どうやら俺たちよりも先に会場に到着していたみたいだ。
俺たちとは違い、アリスはきちんとパーティーに即した立派な服装をしている。どこから調達したのかは知らないが。
そんな俺の視線を感じたのか、アリスは不機嫌そうにこちらへ顔を向ける。
「なによ、アンタもいたの……」
「招待されたからな。そういえば、水無瀬から招待状を貰えたんだな」
「まーね。ちょうど予定が空いていたから来てやっただけよ」
相変わらずつっけんどんな態度だな……。ちょっと揺さぶってみたくなる。
「とか言って、本当は豪華な食事目当てなんじゃないのか?」
「べ、別にそんなんじゃないわよ! 決して豪華なディナーが食べられるから参加したんじゃないんだからねっ! 勘違いしないでよ!」
図星か。やっぱりそうだと思った。俺はコイツの頭の中の七割は食事のことで占められていると思っている。
ところで、と五十嵐が話を切り出す。
「他の人は来ているのかな?」
「さぁ……」
すると、タイミングを見計らったかのように、俺のよく知っている人物がこちらに歩いてくるのが見えた。
「お、みんな揃ったみたいだな」
「おう、もっちー」
「もう来ていたんだ」
そこに居たのはもっちー。彼はわざわざ制服を着て、このパーティーに臨んでいた。
「おいおい慧~、その服装は何だよ~。水無瀬の家に行くときは立派な服装をしなきゃダメだろ~?」
「失念してた……。でも制服っていうのも……」
「何を言う、慧。制服というのは万能なんだぞ! 学校はもちろん、修学旅行でも学校の友達と遊びに行くときもデートをするときも式典に参加するときも、制服を着て行けばなんとかなる! 制服最高! ビバ制服!」
もっちーは制服フェチになってしまっていたようだ。あまりにも熱のこもった演説に、俺だけではなく、アリスも、そして五十嵐も『うわぁ……』という顔をしてちょっと引いている。
「それにしても、やっぱり水無瀬の誕生日パーティーって大規模だよな。流石はお金持ち、って感じだな」
「ああ。大人ばっかりだ……」
そんなことを俺ともっちーが言っていると、五十嵐が言う。
「そんなことないんじゃない? 水無瀬さんの誕生日なんだから、わたしたち以外にも同年代の人とか、それに学校関連でわたしたちのよく知っている人とかいるかもしれないよ、ねぇアリス?」
「そうね。現にあそこにあたしたちがよく知っている人物がいるし」
「「「えっ?」」」
まさか本当にそうだとは思っていなかったのだろう、五十嵐までもがアリスの言葉に驚きを隠せない。
そのアリスは五十嵐に抱き着いたまま、ふいっと顔を向ける。
その視線を追って顔を向けると、アリスの言う通り、俺たちのよく知っている人物が目に入った。
大人にしては背が低い方。色素があまりない薄い色の髪に、いつも開いているかどうか分からない糸目。
あまりにも意外な人物の姿に、俺たち三人は思わず異口同音に。
「「「先生⁉」」」