なんと、謎の美少女だと思ったら水無瀬だった。
「フフフ……鈍感だな、レーゲンパラストよ」
「慧、本当に気づかなかったの?」
「ああ……」
俺は改めて水無瀬の格好を見つめる。
清楚なドレスに、整った髪型。両目は澄んだ黒。高校で俺の隣の席に座っている、眼帯カラコンの中二病少女とは似ても似つかない。俺の中の水無瀬のイメージがいかに『中二病』で占められていたのか改めて実感できる。
ゴホンと水無瀬は咳ばらいをすると、先程の丁寧口調に戻った。
「ということで……それでは、雨宮様、五十嵐様、中へどうぞ」
「お、おう。急にどうした?」
「……こんな場でこんな口調をしたら変な目で見られる」
こそっと水無瀬は小さな声で呟いた。周りを見渡すと、先程の水無瀬の中二病ボイスが大きかったのか、パーティー会場に向かっている人がチラチラとこちらを見ていた。
いつもは周りに構わず中二病オーラを撒き散らしているけどな……。やっぱり、こういう場ではきちんと気にするんだな。
「……すまん」
「それじゃあ、わたしたちは行くね」
「はい。楽しんできて下さいね。私も後で行きますから」
俺たちは水無瀬と別れると、館の中に入る。
そして、着ていた上着を預けると、パーティー会場となっている部屋へと足を踏み入れた。
「すごーい!」
「……こりゃすごいな」
俺たちは目の前に広がる光景に、しばし圧倒されて言葉を失った。
とんでもなく広い――それこそ俺の家が丸ごと入りそうなくらいの部屋。天井からはシャンデリアが吊り下げられていて、広間全体を明るく照らしている。そして、何よりも広間のそこら中に設置されているテーブル。その上には超豪華な飲み物や食べ物が置かれていて、俺たちよりも先に到着していた人たちが、既に談笑しながら食事を取っていた。
「夕食、食べてこなくてよかったね、慧」
「あ、ああ……。それにしてもこれ、本当に誕生日パーティーなのか……?」
小説とか漫画とかアニメの中にしか出てこない規模のパーティーだぞコレ。水無瀬家、いったいどれだけ金持ちなんだ……。
俺が水無瀬家の財力に感嘆していると、待ちきれなくなったらしい五十嵐が俺の袖を引っ張って言う。
「とりあえず、わたしたちも何か食べ」
「あー! ひかり~!」
「ぐへ」
それを言い終える前に、五十嵐は後ろから誰かに抱き着かれて変な声とともに思い切りよろけた。
倒れそうになりながらもなんとか踏みとどまり、五十嵐は振り返ってその人物を見る。そして驚いて一言。
「アリスじゃん!」
「遅いわよ、ひかり!」
五十嵐に抱き着いてきたのは、なんとアリスだった。