五十嵐の言葉を受けて、俺はしばしどのように反応すればいいのか困る。
別にこの話題が出てくることは、自然なことだとは思う。しかし、運が悪いことに、この話は五十嵐にはとても話しにくい内容を含んでいるのだ。
もし、内容を馬鹿正直に五十嵐に話したらどうなるか。きっと五十嵐のことだから、『またまた~そんな冗談を~』と気にしないかもしれない。けれども、この一言がきっかけで何か嫌なことが起こる予感がする。
あの時、アリスは『神様の伝言を俺に伝えに来た』と言っていた。内容が五十嵐に関する重要なこと、であると思われるのに、五十嵐本人を経由せずに、わざわざアリスという天使を使って伝えてきた。
つまり、五十嵐本人にはこの話は都合が悪い、ということなのかもしれない。
……仕方がない。五十嵐には悪いが、伝言については伏せさせてもらおう。
「なんだと思う?」
「えー……アリス結構怒ってそうだったからなぁ……。『あたしのひかりに手を出さないでよ!』とか言ったんじゃない?」
「んー、まあそんな感じ」
「暴力とか振るわれなかった?」
「それは無かったぞ。というかあいつ、お前目当てでこっちに来たらしいが」
「そうだったの⁉ ……なんか嬉しいような、むずむずするような……」
俺としては、あんなツンデレ天使はさっさと天界に帰って欲しいものだが。用も済んだんだし。ただ、実際に口に出すのは流石にどうかと思うので、この一言は心の奥底で反芻するに留めるが。
「そういえば、五十嵐はアリスとはどういう関係だったんだ?」
「え~? 聞きたい? 話すと長くなるよ?」
「おう、大丈夫だ」
「えーっとね……アリスと初めて会ったのは……」
そう言うと五十嵐はアリスとの馴れ初めを延々と語りだした。もうこの話題に戻ることは無さそうだ。よかったぁ……。
五十嵐に悟られることは避けられたが、事実を伏せていることに少し罪悪感を感じる。だが、これは必要なことだ……。
『近く、天使セラフィリに崩壊の危機が訪れる。それを防げるのは、かつての光のみだ』
あまりにも比喩が使われていて何を言っているのかよく分からないこの伝言。だが、なんとなく嫌なニュアンスは伝わってくる。
一番心配なのは、『セラフィリの崩壊』というのが、『近い』としか示されていないことだ。もしかしたら明日かも知れないし、明後日かもしれない。一週間後かも知れないし、一カ月後、はたまた一年後かも知れない。
俺はかなりの不安を募らせながらも、五十嵐の話を聞くのだった……。