「……ぐずっ」
「……大丈夫?」
二時間以上にわたった映画の後、俺たちはスクリーンを後にした。
そして、俺はこの映画で感動して涙を流していた。
だって、あんなに深いストーリーだとは思わなかったんだもん! 見る前までは恋愛映画と高を括っていたが、認識を改める必要がありそうだ。特にあの最後の主人公とヒロインのシーン……あそこはスゴかった。これ以上はネタバレになるから言えないが、とにかくスゴかった。『スゴい』を連発することしかできない俺の貧相な語彙が恨めしい。
というか逆にさ。
「五十嵐は感動しなかったのか……?」
「えっ、う、うん、感動した、よ?」
おい、何故疑問形なんだ。あの話はとんでもなくよかっただろうが! あれで感動できなかったら人間じゃないと思う。
これは、明日学校でもっちーあたりに布教すること確定だな。
☆★☆★☆
数分後、俺がある程度落ち着いた後、俺たちはシネコンを後にした。
「それにしてもお腹空いたね~」
「そうだな……もうそろそろ昼飯にするか」
現在時刻は午前十一時半。少し早いが昼食の時間帯だ。
俺たちは建物を出て、飲食店が集中している駅ビルの中に入る。
「慧、どこに行く?」
「そうだな……あそこの店とかはどうだ?」
俺が指さしたのは、立ち並ぶ店舗のうちの一つ、超絶オッシャレなパン屋だ。普段の俺なら絶対に入らない、そもそも選択肢のうちにすら入ってこないだろう店。
一応、こういうこともあろうかと、事前に家で調べておいたのだ。ここから見る限りだと、まだ時間帯が少し早いのか、併設されているイートインコーナーは空いている。昼食を食べるのならかなりいい場所だと思う。
さあ、後は五十嵐が気に入るかどうかだ。俺は恐る恐る、五十嵐の反応を窺うと……。
「いいね! あんな素敵な店、入ってみたかったんだ!」
「お、おう」
五十嵐は嬉しそうだった。どうやらお気に召したらしい。よかったぁー……。
というわけで、店の中に入ると二人掛けの席を確保した。
こういう店なんて入るの初めてだから、なんか緊張するな……。
ってか、五十嵐と二人きりで外食するのって、遊園地以来だな……。
やべぇ、そう考えると急に緊張してきた。
俺はそれを隠すように、メニューを開いて昼食を選び始めるのだった。