「レーゲンパラスト」
「ん? どうした」
その日の放課後。SHRが終わり、帰ろうとしたその時、水無瀬に呼び止められた。
「……フンフツィヒ・シュトルムもヴァルプルギス・フルムーンも、待って欲しい」
「お、おう?」
「どうしたの?」
「あ、あと……消えた……」
「あー、アリスならもう帰っちまったようだ」
「そう……残念だが、まずはこの三人と話を進めるしかなさそうだ」
そう言うと、水無瀬は俺たちに向かって、縦長の紙を三枚差し出した。
どうやらこれを取れ、ということらしいので、俺たちはそれぞれ一枚ずつその紙を手にする。
「これはいったい……?」
「表の文字を見れば分かる」
「『招待状』?」
「そう」
水無瀬はコクンと頷く。
「実は、此度我はこの世に召喚されたから五千八百四十四日目を迎える……」
「……んーっと、つまり十六歳の誕生日を迎えるということか?」
なんという分かりにくさ。というかそれは本当に合っているのかよ。水無瀬のことだから正確だとは思うが。
「その通り」
「おおー! 水無瀬さんハッピーバースデー!」
「誕生日おめでとう!」
すかさずそこへ五十嵐ともっちーが乗ってくる。水無瀬は大声で祝われたせいか、少し恥ずかしそうに俯いた。
「まだ全然先だけど……」
「そうなの? じゃあ、いつなの?」
「トゥエンティーセブンス・フェブラリー!」
「二月の二十七日なんだ!」
確かにかなり先だ。今日が二月の十五日だから、二週間くらい先の話になる。
「じゃあ、この招待状っていうのは……?」
「我が拠点で開催される大規模な聖誕祭! そのお誘いだ。もちろん、学校が終わってからなのだが……来れそう?」
どうやら誕生日パーティーを開くから、来てくれということらしい。
脳内スケジュール帳によると、その日はフリー。それはもっちーも五十嵐も同じだったらしく、俺たちは三人とも首を縦に振る。
「それで……あの金髪も、一応誘いたいのだが……」
「それじゃあ、わたしが後で渡しておくよ! 多分、アリスは喜んで受け取ってくれると思うよ!」
あれぇー、二人とも、この前ものすごい喧嘩をしていなかったっけ? 誘って大丈夫なのかなぁー?
……でも、あの事件から二人ともなんだかんだ言いつつ少し話すようになったし、どちらも別ベクトルだが表面に本当の感情が出にくいタイプだから……似た者同士、案外気が合うのかもしれない。
それを分かっていたのだろうか、水無瀬は少し顔を緩ませながらも、五十嵐に招待状を手渡した。
「それにしても、招待状があるなんて、ずいぶん本格的だね! 大規模なのかな?」
「……たぶん大規模どころじゃないと思うぞ」
「……そうだな」
五十嵐の一言で、俺は一年前の誕生日パーティーを思い出す。もっちーも俺と同じだったらしく、俺の言葉に同意する。
「え? どういうこと?」
「まあ、当日になったら分かる」
「うん。それまで楽しみにしておいた方がいいと思うよ」
「そ、そうなんだ……分かった」
ここで事情を明かすのはなんだかもったいない気がしたので、五十嵐には実際に体験してもらうことにしよう。
こうして、水無瀬の誕生日パーティーに、二月の二十七日に参加することになったのだった。二月は忙しいな!