「おはよう」
「おう、おはよう慧」
「……十六時間一分三十六秒ぶりだな、レーゲンパラストよ」
「それ正確なのか⁉」
いつものように俺は挨拶し、俺の後ろの五十嵐も挨拶する。だが、まだ昨日のことを引きずっているのか、若干俺の後ろに隠れている。
まあ恥ずかしいんだろうな。流石にあそこまで自爆したら穴を掘って隠れたくなる。
バッグを机に置き、早速一時間目の支度をしようと席につこうとした、その時。俺の後ろの方から、ぶわっ、と得体のしれない殺気のようなものが押し寄せてきた。思わず身震いしてしまう。
い、いったい何なんだ……? まさか、五十嵐があの雰囲気を発しているのか? いや、そんなはずはない。何故なら、今普通に挨拶を……。
「あ、アリスおはよう」
「おはよ~ひかりー!」
その声が聞こえてきた瞬間、殺気が一瞬だけ収まり、そしてまた俺の方へと押し寄せてきた。
俺は恐る恐る、殺気に抵抗して斜め右後ろ四十五度の方向へ、時計回りに百三十五度回転させる。
「……っ」
思わず悲鳴をあげようとして、慌ててこらえる。
何故なら、俺の視線の先には、
『……あ~ま~み~や~け~い~……ブチコ■ス……』
と今にも怨嗟の声をあげて飛びかかってきそうなアリスが、こっちを睨みつけていたからだ。
天使らしからぬ真っ黒なオーラがアリスから発せられているのが今にも見えそうだ。しかも、そのオーラを発しているにもかかわらず、目力以外の表情を全く変えていないのが怖い。
いや、これどうしよう? とりあえず挨拶するか。
「お、おはようアリスサン……」
「…………」
返事がな~い。ピクリとも眉は動かず、全く同じ表情で目だけでこちらを威圧してきている。何故だか分からないが、ここで目を逸らしたら、何かに負ける気がしてきた。何に負けるかはさっぱり分からんけど。
お、落ち着け! この眼力に負けるな、俺!
数秒間、視線の矢で体をブスブスと刺されながらも、俺は数秒間耐え続ける。と、不意にアリスは眼力をフッと緩めて立ち上がった。
そして単刀直入、必要事項だけを端的に言い放つ。
「アンタ、話があるからちょっと来なさい」
「……は?」
「分からないの? いいから早く来なさい。SHR始まるわよ?」
「お、おう……分かった」
俺は席を立つと、つかつかと歩いていくアリスの後を追って、教室の後ろのドアから出て行った。
俺、これから何されるんだろう……。