我が校の昼休みは結構長いと、俺は個人的に思っている。
通常授業の日は、十二時半から一時十五分まで四十五分もある。昼休みの終わりから五時間目までの休み時間を含めれば、実質的に五十分だ。これだけ時間があれば、カップラーメンを順々に作ると十六個でき、光だったら太陽から木星まで行けてしまう。こう考えると意外と長いな五十分。
大半の人はお昼ご飯なんて最初の十五分くらいで食べ終わってしまう。つまり、残りの三十五分は、俺たちに与えられた、学校でくつろげるまとまった時間、になる。
「はぁー……」
食べ終わった弁当をバッグにしまった俺は、うーんと伸びをする。
普段はもっちーや五十嵐と話したり、図書館に行って本を借りたりしているのだが、今日はなんだかそうする気が起きなかった。
ちなみに、今そのもっちーは、
「あ、ちょっとオレ、呼ばれているみたいだから行くわ」
と言って、弁当を食い終わるや否や、廊下へと出て行ってしまった。思わず視線を向けた廊下には、女子が何かを持ってたむろしていた。恐らくはもっちーにチョコレートを渡しにきた他クラスの同じ部活の女子なのだろう。くそぅ、モテモテくんめ! 羨ましい限りだ。
ま、そうはいっても、今年は例年に比べて俺も相当貰っているのだが。
湯崎の義理チョコを皮切りに、姉ちゃんのカカオ九十九パーセントチョコ、そして昼食前に手渡された水無瀬の超高級チョコ。もう、人生で一番チョコレートを貰っている日だと言っても過言ではないと思う。これより前にも後にも、ここまでチョコレートを貰える日など、きっと存在しないだろう。
つまりは、現在進行形で俺にモテ期到来⁉ っていうことだ。
……流石にチョコレートの数だけでモテ期と判断するのは甘いか。
それよりも、何故こんなにも落ち着かないのだろうか。なんだかさっきから妙にそわそわして、落ち着かない、いや、落ち着けない。頻繁に椅子を引いて、姿勢を変えるも、満足感は生まれない。いったい何故だ……?
「慧……ねえ、慧!」
「おうわぁっ! びびび、びっくりした……」
危うく椅子から転げ落ちそうになった……。これでもし俺が椅子から転げ落ちて頭を打って死んで異世界転生して勇者として魔王を討伐しちゃったらいったいどうするんだよ五十嵐。あ、でもこの場合ハッピーエンドだからいいのか。むしろ感謝しなくてはならない。
閑話休題。しょーもない想像を頭の中から追い出して、五十嵐に尋ねる。
「いったいどうしたんだ? 五十嵐」
「もちろん、そんなの一つに決まっているでしょ?」
その言葉で、俺の心臓はドクンと跳ねる。その鼓動で、俺はさっきから自分を支配していた謎の気持ちを理解した。
五十嵐は後ろに回していた手を、正面に持ってくる。その上には、綺麗にラッピングされたそこそこ大きめの包み。
「もちろん、チョコレートだよ!」
お、おう……!
予想通りだな、と理性的になるか、それともやったー! と感情的になるか、いまいち制御できねぇ……。こそばゆいというかむず痒いというか、そんな感覚が俺の中を支配していた。
「あ、ありがとな、五十嵐」
「ううん、いいよ。だって、これはわたしの、……えっとホンメイチョコ? だから!」
「ぶぶっ⁉」
その一言で、俺は思わず吹き出した。
その一言で、教室の喧騒がピタリと止んだ。
その一言で、教室にいた生徒が、皆こっちを見た。
その一言で、教室にいた生徒が、皆再び話し始めた。
アウトー! 完全アウトー! 完全試合達成ー! 前から思っていたけど、五十嵐って意外と天然なところがあるよな! 特に恋愛とか恋愛とか恋愛とか!
ねえ、なんで周りの状況に鑑みないの⁉ 完全にオワタやん。完全にバレたやん。
……この日以降、『五十嵐さんは雨宮君のことが好き』というのが、クラス内の暗黙の了解として君臨することとなった。