「ねえ雨宮」
「どした?」
連休明けの火曜日。今日も無事に放送を終わらせて、その片づけをしていると、不意に湯崎が話しかけてくる。
「ちょっと早いけど、コレ」
「! これは……」
そう言って、湯崎が渡してきたのは、小さな包みに入ったお菓子。一見するとただの飴のように見える。俺も普段だったらそう思っていただろう。ただし、この時期に限っては恐らく違う。
「チョコレートか……!」
「そ。一応手作り」
ま、マジか……! 断りを入れて開けると、ミニながらもしっかりと作られたチョコレートがあった。
「ま、五十嵐ちゃんとの恋愛話を聞かせてもらっているお礼、ってことだね」
「お、おう……」
ということは義理チョコか。俺なんかに本命チョコがくるとはこれっぽっちも思っていないが、それでも嬉しい。
それに、久しぶりに身内以外から貰ったチョコなので、ものすごくドキドキする。心臓の音が外に漏れ出ていないかとても心配だ。
「ちょっと作りすぎちゃったから、消費者を探していたんだ」
「そ、そうか」
「……ひょっとして、雨宮って、女子からあんまチョコレート貰ったことないでしょ?」
「……そそそそそんなことないぞ~」
「嘘おっしゃい」
やはり嘘は通じなかったか。まあ、湯崎相手に嘘なんてつきとおせるとはこれっぽっちも思っていないが。
「さすが童貞クンだね~」
「やめろ」
童貞イジリするな! というか逆にこの年で童貞じゃないのは色々マズいような気がするが。
「まあ私も処女だから人のこと言えないけどね~」
「……ヤメレ」
逆にビッチだったら不純異性交遊で大問題になりそうだ。そもそもの話、『童貞』とか『処女』とか異性に向かって軽々しく言い放つもんじゃないでしょ? 湯崎はもう少し恥じらいというものを持った方がいいのでは?
「で、結局五十嵐ちゃんからはチョコレート貰うんでしょ?」
「ああ、まあな」
「らっぶらぶぅ~♡」
語尾にハートを付けるな! なんか湯崎が姉ちゃん化している気がするぞ!
「で、手作りなんでしょ?」
「……そうだな」
「でっかいチョコレートなんでしょ?」
「本人はそう言ってる」
「『これ、慧のためだけにつくったの……受け取って?』とか言って、受け取っちゃうんでしょ?」
「そ、それはどうかな」
今の五十嵐のモノマネが案外似ていたので、思わず脳内で五十嵐ボイスに変換して(4K映像付きで)再生しちまった。ヤバい。顔が熱くなってきた。本当にこんなことを言われたら、俺の心は莫大なエネルギーを受けて揺さぶられる自信しかねえ。
そんな俺の様子を見てか、湯崎は、
「やっぱアンタ童貞だね~」
「うるせえ!」
最後までブレなかった。