「それじゃ、今からチョコレートづくりを始めるよ!」
「どんどんぱふぱふー」
「なんでそんなやる気なさそうなの、慧?」
「いや、だって、チョコレート貰う側が普通あげる側のチョコレート作りに参加するか⁉ ネタバレもいいところだぞ⁉」
「……だって、料理は慧しかあてにならないんだもん」
「それじゃあ始めるか!」
二階の方から派手なくしゃみの音が聞こえたけど気のせいだよな、うん。
「えーっと、まずは……道具の準備だな。型抜き、小さいボウルと大きいボウル一つずつ、オーブンシート、ゴムベラ、ナイフ、まな板、温度計、……んで食材は、昨日買った板チョコと、あとココアパウダーな」
「……はい、用意できたよー!」
「改めてみると、チョコレートとんでもない量だな……」
あまりにも多すぎて、見ているだけで胸焼けしてしまいそうだ。
「早く次のステップを説明して!」
「あーはいはい。えーっとまずは……チョコレートを細かく刻む作業だな。まな板と包丁で板チョコを細かく刻むんだと。ってこれ全部やるのかよ……」
見たところ三十枚近くありそうだ。これを全部やるのか。考えただけでげんなりする。
そんな俺とは対照的に、五十嵐はやる気満々で、腕まくりをすると、
「よーし、やるよー!」
と勢いよくチョコレートを刻み始めた。
☆★☆★☆
「はぁ……終わった……」
目の前にはチョコの山。我ながらよくやり切ったと思う。もちろん、五十嵐が半分以上やってくれたが。たったこれだけの作業で一時間は費やした。しかも、まだこれは下準備の最初にすぎない。
「はい、次!」
「次は……刻んだチョコレートを小さい方のボウルに入れて、それから大きい方のボウルに約五十五度のお湯を入れて湯煎する作業だ」
「湯煎って?」
「湯煎っていうのは、お湯の熱を使って、火を使わずに物を温める方法だ」
「なるほど! えーっと、まずお湯を入れて……それからチョコレートをボウルに入れて、重ねれば完成、っと!」
「んで、全体的に滑らかになるまでゴムベラでかき混ぜるんだとさ」
「分かった!」
「その時に、ダマが残らないようにする」
「ダマ?」
「溶けないで固まっている塊のことだ。要は全部液体になればいいってことだ」
「了解!」
☆★☆★☆
「慧、だいたい滑らかになったよ」
「OK。次は……テンパリングを行うんだと」
「テンパリング?」
「温度調整のことだ。ちなみに今の温度計の温度は?」
「五十五度だよ」
「ならいい。えーっとまず、ボウルのお湯を十五度の水に差し替えて……」
「……はいはい、次は?」
「次に、ゴムベラでかき混ぜながらチョコレートの温度を三十度くらいまで下げる」
「はーい」
そのまま数分が経過する。というか前々からものすごくツッコミたかったのだが……。
「なあ、五十嵐」
「ん?」
「俺って結局いらなくね? ただスマホで調べたのをそのまま言っているだけだぞ?」
「いいの! 慧がいるとなんか安心感があるから」
「そ、そうか……」
な、なんかその……ちょっと嬉しいやら恥ずかしいやら。こういうのを何のためらいもなく言えるところが、五十嵐らしい。
思わず隣をチラッと見る。すると、エプロン姿の五十嵐もようやく気付いたらしく、顔を赤くして俯いた。