数分後、リビングにそーっと音を立てずに入る。
異様に重い空気のリビングのど真ん中には、脇に銃を置いて帽子を脱ぎ、見事な土下座をしているアリスと、その正面で腕を組んで仁王立ちをしてじーっとアリスを睨みつけている姉ちゃん、そしてとばっちりを食らったのか、アリスの横で何故か同じく土下座をしている五十嵐がいる。
こうして見ると、五十嵐ってかわいそうだよな……。アリスの行動に振り回されて、一緒に謝らされている。前にもこういうことあったよな。アリスはもうちょっと行動を自粛するべきだと思う。
そして、そんな天使二人を無言の圧力を発するだけで屈せられる姉ちゃんも相当なものだと思う。
しばらくして、姉ちゃんは二人に何かを言おうと、息を吸う。
だが、その口から言葉が漏れる直前、先制するようにリビング中に大音量で響き渡った音があった。
ぐううううぅぅぅぅうううう~
もちろん、こんな間抜けな音を出したのは俺ではない。そして姉ちゃんでも五十嵐でもない。
そしてその音源は、慌てて自分のお腹を見ると、顔を赤くして慌てて言い訳をし始めた。
「はぁあうぅう⁉ べ、別に夕食を食べたけどまだ足りないとかそういうんじゃないからね! ただあたしの消化器官が勝手に音を出しただけなのよっ! 勘違いしないでよねっ!」
またお前か、アリス……。お前、ずっとお腹空いているよな。バイトで稼いだ金の七割は飯代につぎ込んでいるんじゃなかったのかよ。
それにしてもこの言い訳、一カ月くらい前にも聞いたような気がする。やっぱりツンデレなのな。
これを受けて、姉ちゃんは無言の圧力を引っ込めると、はぁ、とため息一つ。
「残念だけど、夕食はここには無いわ。だけど、大豆ならここに沢山あるから食べるなら食べていきなさい」
「……そ、そこまで言うのなら……食べてあげないこともないわ」
「は?」
「ごめんなさい食べます食べます大豆を恵んで下さいませ!」
姉ちゃんに大豆を恵んでもらう天使……。ものすごくシュールな光景だ。
「あと、その前に、散らかした大豆を片付けて」
「は、はいぃ! ただいまぁ!」
もはやアリスは姉ちゃんには逆らえないようだ。従属的イエスマン……いや、イエスエンジェルになっている。
「ひかりぃ~手伝って!」
「うん、いいよ!」
一人では大変なのか、アリスは五十嵐に助力を乞う。それを快く承諾するなんて、五十嵐は本当に優しいなぁ……。まさに天使じゃないか。
アリスはそのまま廊下に出て行こうとする。だが、その直前、彼女は俺の姿を見つけるとクルリと向き直り、
「あとそこのアンタ突っ立ってないで手伝いなさいよ」
超高圧的な態度で命じてきた。おい、毎回毎回思うんだが、この五十嵐との不当な扱いの差は何ですか⁉
思わず抗議の声をあげかける。だが、それよりも先に姉ちゃんが。
「それが人にものを頼む態度?」
「雨宮慧様、どうかこのわたくしの片付けを手伝ってもらってもよろしいでしょうか?」
「あ、ああ……」
ここまで丁寧にお願いされると逆に引くんだが……。
……まあ、手伝ってやるか。