文理選択から三日後の日曜日。
「あー、終わったー……」
俺はうーん、と伸びをしてソファーに腰を下ろした。
時計の二つの針は、午前九時を示している。
たった今、家事がようやく一段落したのだ。学校の宿題も終わっているし、やるべきことは全て終わっている。母さんはいつも通り出勤して、徹夜をしていたらしき姉ちゃんは現在爆睡中、五十嵐はアニメ鑑賞で一人の世界に入っている。俺もようやく休日の一人の時間をゆっくり過ごせる!
ま、数時間後には昼飯の準備を始めなきゃいけないんだがな……。
「そういえば慧」
「どしたー?」
すると、ちょうど録画した深夜アニメを消費し終わったらしい五十嵐が俺に声をかける。
「わたしって、この世界に来てからもう二カ月経つんだよね?」
「……そうだな」
正確には二カ月半くらいだがな。
「でも、この周辺のこと、よく知らないんだよね……」
「そうか?」
「うん。わたしが知ってるのは、よく行く総合スーパーと駅までの道くらいかな」
確かに、今までの行動を振り返ってみても、五十嵐はこの周辺では、これら以外の場所にはほとんど行ったことがない。つまり、土地勘が無い状態なのだ。
「だからさ、この地域をもっと知りたいから慧に案内してもらいたいなーって」
「ああ、別にいいぞ」
「ホント⁉ やったー!」
てっきり話しかけられた時には、『キャンプに行きたい』とかアニメの影響を受けたことを言い出すのかと思ったのだが、案外普通の話題でホッとした。
それにしても、地元を知りたい、ねぇ……。
んまあ、地元を知って損はないし、土地勘は無いよりもあった方がよい。地元で道に迷っただなんて笑えねえからな。
「じゃ、行くから準備しとけよ」
「うん!」
俺たちは出かける準備を始めるのだった。
☆★☆★☆
「はぁ~、寒いね……」
「そりゃ二十四節気じゃ『大寒』だからな」
厳密にはもう一週間以上過ぎているが、寒いことに変わりはない。昼間で晴れているのに気温は僅か五度。まさに真冬と呼ぶのにふさわしい天気だ。
「それで、最初はどこに行く?」
「うーん……それじゃあ、家の東の方に行きたいな」
家の東の方というと……学校の方だな。もちろん、今通っている高校もあるが、俺がかつて通っていた小学校や中学校もある。
「よし、家の東には俺の通っていた学校があるから、そこを中心に周辺を見て回るか」
「うん!」
ということで、俺たちは一路東へ進むのだった。
……もしかして、これっていわゆる地元デートというやつだろうか⁉