「は~い、それでは、文理選択のプリントを提出してもらいま~す」
翌日の朝のSHR。堀河先生は教室に来るなり、早速文理選択の話題に切り込む。
「後ろから、プリントを裏にして回収して下さ~い」
俺がファイルからプリントを取り出して待機していると、早速五十嵐がプリントを回してきた。
どうやら彼女はきちんと昨日のうちに決めたようだった。なんて書かれているのかは分からないが、プリントの裏から何か文字が書かれているのが透けて見える。
もちろん、裏返して見るわけにはいかないから、その上に自分のプリントを重ねると、もっちーに回す。
プリントが全て先生の手元に渡ると、先生はトントンとそれを整えながら、
「未提出者は明日までに必ず出して下さいね~、そうでないと進級できませんよ~」
とさらっと脅してSHRを終わらせて教室から出て行った。
先生が出て行った瞬間から、教室は騒がしくなる。俺はそれに便乗して、五十嵐に話しかけようと……
「なあ慧、文理選択どっちにした?」
「俺は理系だ」
……して話そうとしたことをもっちーに聞かれた。
まあ後でも聞けるし別にいいのだが。
「もっちーは理系にしたんだろ?」
「ああ、もちろんだ」
この前、理系にするって言ってたしな。予想通りだ。
それよりも、俺が気になるのは五十嵐。それと、あともう一人。先に席が近い方に話しかける。
「水無瀬、お前は結局どっちにしたんだ?」
「フフフ……よくぞ聞いてくれた……我が運命の選択を……」
「長ったらしいなー。理系か? それとも文系か?」
「……我が運命は理の道を歩む事を選択した」
水無瀬は、中二病口上が遮られたからか、ちょっと膨れっ面だ。
「理系か……なんでそっちにしたんだ?」
「直感」
ちょ、直感……。人生の大事な選択を直感で決めていいのか……? ま、まあ水無瀬は理系も文系もできるし、どちらを選んでも苦労はしないだろう。
さあ、次こそは本命に聞くぞ! というわけで、俺は振り返って五十嵐に話しかけようとすると……、
「ひかり~文理選択どっちにしたのよ~」
「え~……」
彼女は隣の席のアリスとイチャイチャしていた。百合百合しい……。
「アリスはどっちにしたの?」
「あたしは……理系にしたわよ。ひかりが理系を選ぶのを信じて! ひかりはどうしたのよ?」
宣言通り、アリスは理系にしたようだ。さあ、五十嵐はどっちにしたんだ?
五十嵐はふっ、と息を吐くと、にっこり笑って。
「わたしとおんなじだね!」
「ひかり~! これからもずーっと一緒だわ~」
結局、五十嵐は理系にしたのか……。
まあ、昨日一晩ずーっと部屋に籠っていたっぽいし、きっと彼女なりに考え抜いた上での決断なのだろう。それだったら、俺はその決断を支持する。それに……。
「まあ、文理選択をした後でも、文理は変えられるしな。意外とそういう奴は多いらしいし、大丈夫だろ」
「え……?」
その言葉で、五十嵐は、フリーズした。