俺と五十嵐は大通りに合流すると、東へ進んでいく。
高校生になってから電車通学になり、いつも乗り降りする駅が自宅の北にあるので、この大通りも滅多に通らなくなった。小学生・中学生時代はずっと通学路だったのだが……。理由が無くなると、慣れている道も通らなくなるものだ。
俺がそんな真理っぽいことを考えている一方、五十嵐はあちこちを見回していた。
具体的には『へぇー、こんなところがあったんだー』とか、和菓子屋のショーウインドウにはりついて『わぁ……おいしそう……』とか言っていた。お前、さっき朝食を食べたばかりだろうが……。
「おいしそう……」
「おい、行くぞ」
「じゅるり」
「モシモシイガラシサーン?」
あ、もしやこれは……。
「ねえ慧、これ買って!」
「やっぱりそう来たか!」
今月小遣いピンチなんだが。というか、五十嵐も小遣い貰っているんだよな?
「ねえお願い……買って?」
ね、ねえ、そんな捨てられた犬が『拾って』とアピールするような目をしないでくれます五十嵐さん? そろそろ止めてもらえないと、俺の立場が『彼女にお菓子を買ってやらないケチな彼氏』になってしまうんだが。いや、お前の彼氏になった覚えはないが、通行人から白い目で見られているんですけど!
数秒間逡巡している間も、五十嵐は結局その目を止めてくれなかった。これ以上続けられると、俺の世間的な立場がヤバくなりそう。
「はぁ……仕方ねえな……いったいいくらだ?」
「やったー!」
もう来月までやっていける気がしねえ……。
☆★☆★☆
数分後、俺の手は和菓子屋の紙袋を提げていた。トホホ……。アニメやドラマに出てくる振り回され役の気持ちがよく分かる……。
さらに、そこからいくつか交差点を通過していくと、遂に目的地の一つが見えてきた。
「あっ! 学校があるよ!」
「あれが、俺の通っていた小学校だ」
特に何の変哲もない小学校だ。
もちろん、日曜日なので授業はやっていない。近所の小学生野球チームが、グラウンドを使って野球の練習に精を出していた。
五十嵐はその光景をひとしきり眺めると、不意に言う。
「ねえ、慧が通っていた中学校ってどこ?」
「さらに奥側にあるぞ」
「じゃあ、そっちも見てみたいな!」
五十嵐のその一言で、脳裏に一瞬不安がよぎる。
だが、俺はそれを押し殺して答えた。
「……ああ、それじゃあ行くか」
「うん!」
俺たちは、小学校の正門前を通り過ぎて、さらに東へと歩みを進めるのだった。
言い知れぬ不安を抱えながら。