アリスの容赦ないツンで傷心の俺は、五十嵐とスーパーで買い物をしてから家に帰る。
日は沈み、辺りは真っ暗になりつつある。俺の心もまた、さっきからずっと沈んでいた。
「俺、キモオタだったのか……」
「そんなことないって! 大丈夫だよ! 今のところ上手くごまかせているから!」
「それ全然励ましになってねえよ……」
あー、気のせいか食材の入ったレジ袋が重く感じる……。
「えーっと、じゃあわたしよりかはまだマシだよ!」
「それ自分をキモオタだと認定していることにならないか……?」
俺的には五十嵐はキモオタではないと思うのだが。俺以上にアニメを観ているけど、少なくとも『オタク』という感じはしない。
そもそも『オタク』の定義って何だろう? アニメを観ていたらオタク? いや、それだったら日本国民のほとんどがオタクになるよな。
遂に『オタク』に関して哲学を始めた俺の横で、五十嵐は。
「とにかく、わたしがアリスに注意しておくよ! キモオタって言わないように、って」
「そ、そうか……」
五十嵐の目につかないところで、散々disられそうだが。
「というか、アリスの働いていたところって本屋だったんだな」
「そうだよ」
「おい、認めちゃって大丈夫なのか? アリスに記憶消去されてしまうんじゃねえか?」
「だって、もうバレちゃってるじゃん。いまさら慧に隠したってしょうがないでしょ?」
まあ、そりゃそうだよな……。それに、記憶が今も消去されていないことから、アリスも五十嵐と同じ考えに至っているらしい。
それでも、俺には一つ疑問が残る。
「それにしても、アリスが本屋で働いているのを本人から聞いたんだよな? 俺には、レジでアリスを見た時にまるでそこで働いている事を知らなかったかのように見えたんだが」
「あそこの本屋さんってチェーン店でしょ? アリスからは、そのチェーン展開している本屋で働いていて、そこがいいよ、って言われただけで、具体的にどのお店で働いているかは教えてもらわなかったんだ」
「そうだったのか」
つまり、あの書店で働いていることは知っていたが、あの店舗で働いていることは知らなかったということか。
すると、五十嵐が何かに気づいたようでスマホを取り出す。
「あ、アリスからLIMEで『三人で話がしたい』ってきてるよ」
「ん、そうか」
どれどれ……。俺は一旦立ち止まると、スマホを取り出しLIMEを開く。すると、グループへのお誘いが一件来ていた。メンバーは五十嵐、アリス。
たぶん、バイトのことについて話したいのだろう。せっかく誘われているし、『拒否』するとめんどくさいことになりそうだから、入っておくか。
俺は『承諾する』ボタンをタップして、グループに入った。