キーンコーンカーンコーンと終業のチャイムが鳴り、学校が終わる。
わらわらとクラスメイトが出て行く中、俺は帰りの支度をすると、五十嵐に話しかける。
「あ、そうだ、五十嵐」
「どうしたの?」
「今日、帰り道でスーパーで買い物をするから付きあってくれないか?」
「うん!」
五十嵐は快諾した。が、彼女は言葉を続ける。
「……あのさ、その代わりって言っちゃなんだけど、わたしも実は今日、買いたい本があるんだ」
書店で本を買いたいのか。食材の買い物には最近だいたい付き合ってもらっているから、たまには五十嵐のやりたいことにも付き合ってやらないと釣り合いが取れない。
「ああ、もちろん寄っていいぞ」
「ありがとう! それじゃ、行こう!」
生徒たちの波に乗りながら、俺たちは書店へ向かう。
学校から一番近い書店は、学校の最寄り駅から少し離れたところにある。普段、本は家の近くの書店で買うので、立ち寄るのはとても久しぶりだ。
「そういえば、昼間の話だが、アリスからはいいバイト先を教えてもらえたのか?」
「うん! だけど、慧には言わないよ」
「なんでだよ……。というか言ったところで別に大丈夫じゃないのか?」
「ううん。アリスはわたしと違って、天使の力が使えるから、すぐにバレて怒られちゃう」
あー、そういうことか。もし五十嵐がそのことを言ったら、アリスが俺の脳内を読み取ってバレちゃうのか。
「それに、慧が聞いても、そのバイト先を忘れさせるんだって」
「そうか……。なら聞かないでおこう」
どんだけ俺のことが嫌いなんだよ……アリスぅ……いくらなんでも拗ねすぎだろ。
俺は小さくため息をつくと、頭の中からこの話題を追い出す。
それにしても、五十嵐が本を買うなんてな……。ちょっと意外だ。天使はほとんど物欲なんてないだろう、と勝手に思っていたのだが。いったい何の本を買うんだろう? もしや、今期放送しているアニメの原作とか?
「お小遣いは持ってきたのか?」
「うん! 千円あればたぶん足りるはず……」
「小説か? それとも漫画か?」
「えーっと、マンガかな?」
「何故疑問形なんだよ……」
自分でも分からないということは、アニメの原作が小説か漫画か分からないパターンじゃないか? とすればアニメ関連に違いない。
そんなことを推理しているうちに、俺たちは目的の書店に辿り着いた。コミックや小説が置いてある地下一階に下りると、五十嵐は早速目的の書籍を探し始める。その間に、俺は店内をぶらついて待つ。
久しぶりに来たが、やっぱり置いてある本の数は多い。家の近くの書店と比べると、その数は段違いだ。近所の書店には一切置いていないラノベのシリーズが全巻揃っている。
確か財布の中には、野口博士が一人いるはず。なら一巻だけ買っていくか。
俺がそのラノベを手に取り、財布を取り出していると、
「あれ、慧も何か買っていくの?」
「うおぁっ……ビックリした」
いつの間にか背後に五十嵐が立っていた。ねえ、もしかして透明マントを被っていたのではなくって?
「それで、欲しい漫画はあったのか?」
「うん! マンガじゃなくて小説だったけど、今期のアニメ化作品コーナーに置いてあったよ!」
じゃじゃーん! と本のタイトルを見せてくる。
あ、これ、五十嵐に勝手に録画を観られて消されたやつだ……。
「それじゃ、レジに行こう!」
「お、おう」
五十嵐が読み終わったら貸してもらおう……。
そんなことを思いながら、俺たちは本棚の間を通り抜けてレジへと向かう。
先に、五十嵐がレジ係に本を差し出した。
「いらっしゃいませ~」
ん? なんか聞いたことのある声だな……。でも、レジ横のクジのコーナーに阻まれて、レジ担当の顔が見えない。
だが、その違和感は、一秒後に五十嵐の声であっけなく判明した。
「お願いしま……ってアリス⁉」
「んあっ⁉」