「なあ、もっちー」
「どした慧」
明くる日、学校の休み時間に、俺はもっちーに話しかける。
「この学校って、アルバイトOKだったよな?」
「ああ、学校に申請して許可証を貰えば大丈夫だったと思うよ」
そうか、学校に申請して許可を得なきゃいけないのか……。というかもっちー詳しいな。
「もしかしてバイトしてるのか?」
「いいや、オレはチビどもの面倒をみなくちゃいけないから、バイトなんかできっこないよ」
ふーん……。それはそれで大変そうだな。
「じゃあ、なんでそんなにアルバイトについて詳しいんだ?」
「え? そりゃあ生徒手帳に書いてあるからだよ。それに、一年の最初に言われたじゃん」
「そうだっけな……」
記憶にございません。
「慧こそ、バイトを始めるつもりなの?」
「ああ、そのつもりだ」
「ふーん……何をしようとしているか知らないけど、まあ頑張れよ」
もっちーは俺の肩にポンと手を置く。
ああ、頑張るさ……。五十嵐の勉強机のために。
もちろん、一度でもいいからバイトをしてみたい、というのもあるが。
「ム、貴様、まさか企業の手先になり自ら使い潰されようとしているのか⁉」
今の話を聞いていたのか、隣の席の水無瀬が食いついてきた。相変わらず変な言い回しだし、なんか物騒だ。
「俺はアルバイトをしたいだけだ」
「ほう……なら我が下で働くか?」
「……どういう意味だ?」
「我がボディーガードの職なら貴様にも開かれている」
「ボ、ボディーガードか……」
本気なのか……? また中二病の症状が出ているだけなのか……?
というかボディーガードねぇ……。うーん、あんまり体を張る仕事はしたくねえな……。それに、なんか勤務時間が長そうなイメージがある。そもそも、俺はボディーガードに向いていない気がする。たぶん、肉の盾になるくらいしか役目が無いと思う。マッチョとか暴力団員とかが突っ込んで来たらすぐに吹き飛ばされる自信しかない。
「多分、ボディーガードは俺には無理だな。水無瀬を守り切れないと思う」
「そうか……」
俺がそう断ると、水無瀬は残念そうな顔をする。だが、それでもちょっと照れているような嬉しそうな顔をしているように見えるのは、気のせいだろうか。
それにしても、アルバイトってなかなか経験者がいないもんだよなぁ……。やっぱり、高校生ってバイトするべきじゃねぇのかな?
とりあえず、俺はこれまで得た情報を共有するため、五十嵐の方へ向かう。
「あれ? アリスったらスマホ買ったの?」
「そうよ! Allegroid(アレグロイド)だけどね!」
「おーい、五十嵐、この学校はバイトOKだそうだ」
「ホントに⁉ やったー!」
会話を遮られたアリスは俺をジロッと見ると、不機嫌そうに刺々しい口調で聞いてきた。
「もしかして、アンタたちバイトするつもりなの?」
「ああ。アリスはいいバイト先とか知ってるのか?」
「もちろん! でもアンタには教えてやらないわよ!」
フン! とアリスはそっぽを向く。あーあ、こりゃ完全に拗ねているな……。
「そんなこと言わないでよ~アリス~」
「むぅ……分かったわよ。ひかりにだけ教えるわ……アンタは絶対に聞かないでよね!」
そう言うと、アリスは五十嵐を連れて教室の外へと出て行ってしまう。
少しズルい手段ではあるが、まあ、後で五十嵐に聞けば話してくれるだろう。
さ、次の授業の準備でもするか……!