一晩が明けると、昨日とは対照的にふゆびよりだった。もちろん、普通に学校がある。
だが、昨日の大雪の痕跡は色んな場所に残っていた。道は雪が踏み固められているせいでとても滑りやすいし、外にある階段も踏面が凍っている。いかんせん、降った雪の量が多いのだ。
だから……。
「今日は持久走はないと思ったんだが……」
「それがあるんだよね、この学校は! 無駄に仕事が速いんだよなあ」
もっちーが俺の傍らでぼやく。
今は一時間目の体育。競技はみんな大好き・持久走である。
実を言うと、俺はあまり持久走は好きではない。得意か苦手かで言えば、毎朝ランニングをしていたから得意な方でさえある。ただ、自分を苦しめてまで走り込むのはちょっと……というのが俺の気持ちだ。
だから、大雪で校庭が使えなくなり、持久走の授業が潰れるのを期待していたのだが……。
校庭に積もり積もったであろう雪は、全て端へと除雪されていた。もしや昨日休校にしたのは、こうするためだったのか? くっそー、俺たちがのんびり休んでいる間に、こんなことが起こっていたとは……。
学校の対応の速さも侮れねえな、と思っていたその時、笛の音が響く。女子の持久走が始まったのだ。
この授業は隣のD組と合同で行われており、さらに男子と女子の走る時間がずれている。授業ごとに順番は入れ替わるのだが、今回は女子が先発で、俺たちは後発である。
初っ端から持久走とはさぞかしキツかろうな、と他人事のように考えていると、女子の先頭がトラックを半周回り、早速俺たちの目の前に差し掛かる。
「もちろん、先頭は五十嵐さんだよなぁ……」
早くも校庭を一周し、五十嵐が俺たちの目の前に差し掛かる。陸上部員にも引けを取らない速さだ。
俺の姿を見つけたらしく、こっちを見て手を振ってきたので、俺も小さく手をあげて応じる。余裕だな、おい。
続々と通り過ぎる先頭集団。その中に、一人意外な人影を見つけて思わず呟く。
「意外と速いんだな……湯崎」
かなりのスピードで走る先頭集団の後ろの方に、湯崎の姿があった。
放送委員会でしか顔を合わせないから、実はあまり彼女のことは知らない。もちろん、運動が得意だということも知らなかった。そういえば、湯崎の所属している部活って何だろう?
「湯崎さんは運動ができるほうだよね。バレー部に所属しているし」
「そうだったのか……」
てか、この学校にバレー部があること自体初めて知ったぞ。
俺たちがそんなことを喋っている間にも、俺たちの目の前を女子たちはどんどん通り過ぎていく。
しばらくすると、ようやく女子の最後尾グループがやって来た。その後方からは既に女子の先頭グループが迫ってきている。
「はぁ……はぁ……」
「もぅ……無理……」
そのグループの構成員は二人。水無瀬とアリスである。二人とも、まだ一周もしていないのにもう息が切れかかっている。どんだけ体力が無いんだよ……。
まあ、それでもまだ『もう無理』とか言えている辺り大丈夫そうだ。本当にヤバい時は呼吸するだけで精いっぱいだし、視界がモノクロになるからな。
周りを見渡してみると、男子の視線がその二人に集中している。
もちろん、二人だけだから目立っている、というのもあるが、それ以上の要因があった。主にアリスに。
「……目の保養だな」
「やめい」
そう、男子の目線を釘づけにしているのは、そのおっぱいだった。
何を隠そう、アリスは巨乳である。
だから、足を踏み出すたびにそれが大きく揺れていた。もしかしてあんなに疲れているのって、それの重さのせいなんじゃないのか?
周りの男子は、ガン見している連中が三割、さりげなさを装ってチラチラ見ている連中が七割といったところだろうか。
チラチラと見ようが堂々と見ようが、見ていることには変わりはないのだが。
全く……このクラスの男子どもは変態しかいないのだろうか?
おっと、俺は見ていないぞ? 俺が見たら多分アリスに真っ先に感知されるだろうからな。その後に多分ツンデレ……はされずにシバかれる気がする。というわけで、絶妙に視線を当てないようにして水無瀬の方を見ていた。
しっかし、水無瀬もそれはそれで……なぁ……。
アリスと比べたらまるでまないゴホンゴホン。
水無瀬に睨まれたので、これ以上このことについて考えるのは止めておこう。うん、それが賢明だ。