「はー……」
「疲れたー! けど楽しかったー!」
だいぶ雪も収まってきた頃、玄関のドアを開けて俺たちは帰宅する。
久しぶりの雪合戦、意外と楽しかったなぁ……。まあ、俺がずっと圧倒的不利だったが。それでも、雪で遊ぶことの楽しさを思い出させてくれた。五十嵐には感謝しなきゃな。
それにしても、本当に家の中はあったかいな……。廊下には暖房が無いはずだが、外と比べればものすごくあったかい。しっかりと雪対策をしていたおかげでそこまで濡れなかったが、体は相当冷え込んでいる。こういう時には、あったかいものでも食べたいものだ。
そんなことを思いながら、リビングに入ると。
「おふぁえりぃ~」
「ただいまです! 舞さん!」
「ようやく起きたのかよ、姉ちゃん……」
姉ちゃんが炬燵に入ってダラダラしていた。学校が休みだからと言って、いくらなんでも起きるの遅すぎだろ、姉ちゃん……。
それにしても、姉ちゃんはいったい何を食べているんだ? 炬燵の上に常備しているみかんではなさそうだな……。
「いったい何食べてんの、姉ちゃん?」
「おもふぃ」
「……お餅?」
「んぐっ……うん、そうよ」
姉ちゃんは口の中に残っていた餅を一気に飲み込んだ。んなことしたら喉詰まるぞ……。
きっと、俺が置いていった朝食では足りなかったのだろう。起きる時間も遅かったのも関係しているかもしれない。時計を見ると、もうそろそろお昼時だ。
俺たちもお昼ご飯にするか。
「姉ちゃん」
「んー?」
俺は、みよーんと餅を伸ばしながら食べている姉ちゃんに聞く。
「その餅、まだ余ってる?」
「んぐ……もちろんよ。だって、コレ、鏡開きの時に開け忘れたやつだもの」
「あーそうか」
そういえばすっかり忘れていたな……鏡開き。確か俺、その時にインフルエンザに罹っていてそれどころじゃなかったんだよな。
「じゃあ、これをお昼ご飯にするか。五十嵐はそれで大丈夫か?」
「うん! もちろんだよ!」
よし、これで昼飯わざわざ作らなくても済む……。疲れている時に飯を作るのはできるだけ避けたいからな。
俺たちは手を洗うと、残っていた餅を焼き、適当にインスタント味噌汁を作って昼食にする。
「いただきまーす!」
「いただきます」
俺は餅を口に運ぶ。
あっつ! でも、美味い! 正月と言えば、やっぱり餅だよな! 逆に正月以外では滅多に餅なんて食わない。
「んーーーー!」
五十嵐は餅を食べるのは初めてのようで、餅をひたすらみょーんと伸ばしていた。もしかして嚙み切れないのか?
「んはっ、んぐんぐ……」
あ、嚙み切れたみたいだ。
「美味しいけど、どこで嚙み切ればいいのか分かんないよ」
「まあ、最初は難しいよな。喉に詰まらせないように気をつけろよ」
毎年正月になると、高齢者や子供が餅を喉に詰まらせて救急搬送される、というニュースが流れてくる。餅は美味しい殺人兵器だ。初心者の五十嵐には、ハードルが高かったかもしれないな。
それでも、なんだかんだ俺たちは昼飯を完食した。
食べ終わり、小休止を挟むと、姉ちゃんがおもむろに立ち上がった。
「よし、それじゃあ外で雪合戦でもしようか!」
「第二ラウンドですね!」
「えぇ……」
また雪合戦をやるのか⁉ 姉ちゃんはまだしも、五十嵐はあれだけ雪合戦をしたのにやる気満々だ。体力化け物かよ……。
「慧はやらないの?」
「一緒にやろうよ!」
「……はぁ、わかった。やるか!」
俺は体力有り余る女性陣に急き立てられるように、雪合戦第二ラウンドへ参戦するのだった。