「なあ、姉ちゃん。姉ちゃんって文系だっけ、理系だっけ?」
「突然どうしたのよ?」
その日、家に帰って夕食を食べている最中に、俺は姉ちゃんに突然質問してみた。そしたら逆に質問し返された。
「いやあのさ、今日学校で文理選択をどっちにするか、プリントが配られてさ……」
「ああー、そういえばそんなの配られたわね」
俺が説明しだすと、姉ちゃんはすぐに納得したようで頷いた。
それで、結局姉ちゃんはどっちなんだっけ? 姉ちゃんは体育会系が似合っていると思うけど、俺の学校にそんなコースはないし、必ず理系か文系のどっちかに属しているはずだ。姉の進路を知らないっていうのもアレなんだがな。
「えーっとね、私は……あれ、どっちだっけ?」
えー⁉ 自分でも分からないんですかー⁉
いやいや、それはないだろう。姉ちゃんは多分ボケているだけだ。若年性認知症なだけだ。いやそれヤバいじゃんそんなわけないじゃん。
「でも、確か二年生の教室で世界史の授業をやっている時に、舞さんを見た気がしますよ」
「ああ、そうだ。私、文系だ」
「忘れていたんかい!」
もうちょっとしっかりしようよ姉ちゃん……。それだから、いつもテストで赤点スレスレになるんだよ……。
「文系か……」
「ひかりちゃんはどっちにするの?」
「まだ決めてないです……」
「慧は確か理系だっけ?」
「ああ、うん」
このまま大きなことがなければ、俺は理系を選ぶことになるだろう。
五十嵐は未だにかなり揺れているようだ。お茶碗を持ちながらうーんと考え込んでいる。
「舞さん、文理選択って二年生のクラス編成に影響しますか?」
「うーん、そうだねぇ……。表向きは影響しないことになっているんだけど、事実としてだいたい分けられているわね。選んだ人数にもよると思うけど、私の学年の場合、A組~D組が理系、E~H組が文系かしら」
『表向き』って……。姉ちゃんは学校の闇を覗いているのだろうか……。
「そうですか……」
「え? もしかしてひかりちゃん慧と一緒のクラスになりたいの?」
「もちろんですよ」
お、おう……。言い切ったな、コイツ。
なんというか……。嬉しいような、恥ずかしいような、そんな理由で文理選択するなよと呆れるような……。
「いいねぇ~! 慧、よかったね~。ひかりちゃんが一緒のクラスになりたいって! ラブラブじゃん!」
「う、うるせー」
姉ちゃんの冷やかしを避けるようにして、俺は正面の五十嵐の様子を伺う。何を言ってんだよ! とちょっと非難の目線も込めて。
だが、その五十嵐は、無意識に姉ちゃんの指摘した意図が入っていたことに気づいたようで、顔を真っ赤にしていた。手を太もものあたりで握ってもじもじしている。
おい! もしかしてさっきのアレは天然だったのか⁉ というかそうじゃないとこの反応になる理由が説明できない!
天然天使、恐るべしだな……。