ふと時計を見ると、いつの間にか長針が六を、短針が六と七の間を指していた。
遅れを取り戻そうと必死になっていたら、前回の休憩からいつの間にか三時間くらい経っていた。
やっぱ、夢中になるとつい時間の流れを忘れてしまうなぁ。
そろそろ夕食時。かなりお腹も空いてきた。
確か、母さんは朝、『夕食は舞に買ってくるように頼んでおいた』と言っていたな。ならば、俺の夕食は姉ちゃんが持っているはずだ。この時間なら、もう家に帰ってきているはずだし、貰いに行くか。
そう思ってノートを閉じて椅子から立ち上がると。
「けい~」
「くぁwせdrftgyふじこlp⁉」
「何その叫び声……」
ビックリした……。五十嵐かよ。最近、ますますステルス性能がよくなっている気がするぞ! 主に俺に対して。ってか、ドアが開く音さえ気がつかなかった。これはもしかして俺の耳が悪くなったということなのか? 鈍感難聴系にはなりたくねぇ!
そして、俺は五十嵐のその顔を見て、思わず問いだたした。
「五十嵐。お前、飯、食ったんだよな?」
「う、うん……」
「じゃあ、なんでダメージ食らっているんだ⁉」
五十嵐は見事なまでにゲッソリしていた。え? 食事って体力を回復させるためのものじゃないの⁉ 逆にダメージを受けているなんておかしい!
五十嵐はコンビニのおにぎりと野菜サラダを机の上に置く。姉ちゃんの代わりに持ってきてくれたのか……。
それにしても、何故五十嵐はこんな様子になってしまったんだ⁉
「五十嵐、お前今日の夕食、何を食べた?」
「……煮」
「に? に、って数字の二、じゃなくて、『サバの味噌煮』とかの『煮』か?」
「そう……」
『~煮』なら聞いたことあるが、『煮』なんていう料理は初めて聞いた。名前から想像すると、つまりこの『煮』というものは……。
「まさか、野菜を水にぶち込んで煮たものを食べさせられたのか⁉」
「……そう」
マジかー! しかし、コンビニでそんな料理が売っているはずがない。とすると、これを作ったのは……。
「あんの姉ちゃんんんんんんんんん!」
脳裏に『へへーん、私だって料理はできるもんね!』と得意げになっている姉ちゃんが浮かぶ。ジャイ●ンシチューよりかはマシだけど、それでもものすごい味の料理であることには違いない。
もう姉ちゃんには『料理禁止令』を出すしかないな……。このままだと、家庭が内側から崩壊しかねない。
「慧……いつも料理を作ってくれてありがとう」
「唐突だな⁉」
「今日の夕食で、慧の偉大さを知ったよ……」
五十嵐のこの言葉を聞いて、明日から何が何でも台所に立とう、と俺は決意したのだった。