「ただいま」
「お帰りなさい、ひかりちゃん」
わたしが玄関のドアを開けると、今日は早く帰ってきているようで、舞さんの声が奥から聞こえた。
慧曰く、『ウチの生徒会はブラックだから姉ちゃんは毎日遅くまで学校に居残っている』らしい。それが本当なら、今日はとても珍しい日ということになるけど……。
わたしは靴を脱ぐと、真っ先に舞さんの声が聞こえたリビングへと向かう。そこで、舞さんは何をしていたかというと。
「……料理ですか?」
「そうよ! いつも慧にやってもらっているから、今日くらいは姉としての威厳を見せないとね!」
舞さんは台所に立って料理をしていた。そういえば、舞さんが台所に立って料理をしているのを見るのは初めてかもしれない。そもそも、舞さんの料理をわたしは一度も食べたことがない。果たしてどんなものを作ってくれるのだろう……。
舞さんは包丁で野菜を刻み続けながら続ける。
「だいたい、いつも慧は『姉ちゃんが料理をすると、あの紫色の毒々しいシチューが出てくる』とか言っているけど、絶対にそんなことはないわ。私だって一生懸命練習して料理の腕は上達したんだから」
なんだか嫌な予感がしてきた……。け、けれども大丈夫だよね。生徒会長の舞さんだし、多分美味しいものを作ってくれるよね……!
「それで、いったい何の料理を作るんですか?」
「ふふーん、それはお楽しみ~」
そう言いながら、舞さんはかなり大きく切り分けた野菜を、水の入った鍋の中にドボンと投入していく。そして蓋をすると、火をかけ始めた。
……なんだろう、ものすごく不安なんだけど。
そして舞さんは口笛を吹きながら手を洗い始めた。わたしは恐る恐る舞さんに尋ねた。
「あの……これで料理は終わりですか……?」
「そうよ? あ、あと『スズキのごはん』もあるわよ~」
戦慄した。だって、切った野菜を水に突っ込んだだけだよ? 何の味付けもされていないんだよ? 果たしてどんな味になってしまうのだろう……わたしには想像できなかった。
☆★☆★☆
「じゃーん! ご飯できたわよ~!」
「は、はぁ……」
十数分後、舞さんが食卓の上に並べていく料理を見て、わたしは思わず固唾を飲んだ。
目の前に出されたのは、『スズキのごはん』とさっき舞さんが作っていた、野菜を水で煮たもの。
「ち、ちなみに、この野菜を煮込んだものの料理の名前はなんていうんですか?」
「え~っと、これは『煮』だね」
煮⁉ どこかのポ●テピクッキング⁉ 思わず心の中でツッコんでしまった。こ、これをわたしは今から食べるの……?
「それじゃあ、食べようか! いただきま~す!」
わたしは恐る恐るといった様子で、舞さんは嬉々とした様子で同時に『煮』に箸を伸ばす。
思わず唾を飲み込み、覚悟を決めてから、震える箸でどうにか人参を持ち上げた。
「い、いただきます……」
予想通りというべきか、その味は想像を絶するものだった。