翌日。いつものように五十嵐と登校すると、俺は自分の席に座る。
隣の席は昨日から空のままだ。まあそりゃそうだ、あれだけの熱を出していたら、流石に体調がよくなるまでにかなりの時間がかかるだろう。
それよりも俺が心配なのは、水無瀬の単位である。『修得』の面は頭がよいから別にいいとしても、二学期の途中まで不登校だから『履修』ができていないのは明らかだ。それに単位に関係なく俺たちの学校は年間出席日数の三分の一が欠席だった場合、未履修と判定されて問答無用で原級留置、すなわち留年になる。水無瀬がどのくらい休んでいるのか詳しくは知らない。だが、留年スレスレの出席数であることは確かだ。
……マジで留年しなければいいのだが。
「ゲッホゲホ!」
「大丈夫、慧?」
「ん゛んっ……大丈夫だ」
それにしても、今朝からよく咳が出るなぁ……。それに、なんだか声の調子までもおかしい。風邪でもひいてしまったのか……。念のため、マスクをしておこう。
ちょうどその時、朝のSHRを告げるチャイムが鳴り、教室前方のドアが開いて堀河先生が入って来た。
「皆さん、おはようございま~す」
「「「「「「おはようございます」」」」」」
今日も緩い感じが絶好調の先生が、いつものように挨拶をすると、打って変わって珍しく真剣な口調で話を始めた。
「最近、インフルエンザが流行っています~。特に二年生で大流行しているので、手洗いうがい、そして持っている人はマスクをしっかり着用して下さいね。このクラスでも、今朝水無瀬さんがインフルエンザに罹ったと連絡がありました」
おおう、水無瀬、インフルエンザだったのか……。これはますます心配になってきた。インフルエンザに罹ったら、最低でも五日間は学校に来れなくなる。つまり、早くても十五日の月曜日までは来れないわけだ。本当に出席日数は足りるのだろうか……。
「皆さんも、十分気を付けて下さいね~。今日も一日頑張りましょ~」
まあ、俺は大丈夫だろう。ここ数年間は一度もインフルエンザに罹ったことは無いし、今年はきちんとワクチンも打ったし。
SHRが終わると、俺はいつものように一時間目の授業の準備をするのだった。
☆★☆★☆
時間は過ぎて昼休み。
俺は弁当も食べずにゴホゴホと一人机に向かって咳き込んでいた。
気のせいか、体までだるくなってきている気がする。やはり、風邪をひいているかもしれないのに学校に来たのか悪かったのだろうか……。いや、そんなはずはない。
「大丈夫?」
そんな俺を見かねたのか、五十嵐が俺の様子を心配してくれている。
「大丈夫だ……と言いたいところだが、ちょっとマズいかもしれない。なんか体がだるい」
俺がそう言うと、何を思ったのか五十嵐は突然えい、と手を伸ばして俺の額に手を当ててきた。ひんやりした感覚が、一気に額に広がる。
「わっ、ちょっと熱っぽいよ。保健室に行った方がいいんじゃない?」
「……そうだな、そうする」
俺はだるい体を動かして、保健室へと向かうのだった。