「ふぅ~……」
「メッセージ送り終えた?」
「ああ」
そう答えてスマホを机に伏せると、うーんと伸びをする。
後は早く五十嵐がこれを読んで、すぐに変えてくれればいいんだが……。
あ、LIMEの通話機能を使って口頭で伝えればよかったな。まあいまさらだし、一度送ったやつをもう一度言い直すのは面倒くさいしいいや。
「あー湯崎」
「ん?」
「LIMEのホーム画のこと、教えてくれてありがとな。あのままだったら、大変なことになるところだった」
「う、うん……まあ、応援する身としては当然だから」
全然応援されている気がしないのは俺だけだろうか。なんか逆にからかわれて弄ばれているようにしか思えない。
「それにしても、最近の五十嵐ちゃんとの関係はどう? デートしたんなら当然手とか繋いだよね?」
「……んまあ」
俺はちょっと複雑な気持ちを抱えながら答える。
正確に言えば去年の最後の湯崎との放送の後から、あの事件のことを話すまでの間、何度か繋いだのみだ。それも全て、五十嵐の方から積極的に繋いできていた。
だが、あの事件のことを話して以来、急速に近づきつつあった俺たちの距離は、再び離れてしまった。
それでも、初詣の日に、俺から五十嵐と手を繋いだから、そこは進歩と言えるのかもしれない。
そんなことを考えている間に、俺の答えを聞いた湯崎がおお~! と声をあげる。
「順調じゃん! 雨宮も随分積極的になってきたんじゃん! 前は結構ヘタレだったのにね」
「うっ……」
辛辣な一言、頂きました。湯崎はアリスとは違って、言葉の中にさりげなく棘を含ませて来るなぁ……。
「それで、雨宮は五十嵐ちゃんにするつもりはあるの?」
「する? 何を?」
「まさか~、告白だよ、こ・く・は・く!」
ああ、告白ね。てっきりイケナイ方面かと思ったぜ……。
それにしても、告白か……。前の放送の時にも湯崎に同じようなことを言われた気がする。でも、その時はあの事件のことで俺の中に決着がついていなかったから、するつもりは無かった。
今はどうだろう。
あの事件に対する気持ちを変化して、五十嵐にも洗いざらい話したことで、ちょっとは向き合うことのできた今はどうだろう。
……やっぱり分からない。心の中に色々な気持ちがブレンドされているせいで、考えてもよく分からない気持ちになっている。
でも、その中に、俺は一つだけ確実に入れる気持ちはあった。
『もうそろそろ決着をつけよう』。これだけは言える。
もしも――本当にもしも、この事件と俺の気持ちに決着がつくのなら――俺は、五十嵐に告白をするかもしれない。
だが、今決着をつけるには時間が短すぎる。考えてもすぐに答えが出る簡単なものではないから、一度じっくり考える時間が必要だろう。
……とりあえず今は濁しておくか。
「……分からないな。するかもしれないし、しないかもしれない」
「え~! 告ったら絶対に五十嵐ちゃんはОKしてくれると思うんだけどな~……つまんないの」
当然、湯崎はそんな俺の心の内を知るはずもなく、残念そうに言う。
突然、再び弁当を食べ始めた俺たちの頭上から聞き慣れたチャイムが響く。
このチャイムは……。
「やば! 五時間目始まっちゃう! じゃあ雨宮、お先に!」
「お、おい!」
湯崎はチャイムの音を聞くなり、弁当をかき込むと素早く荷物をまとめて、俺が止める暇もなく放送室から駆け出して行った。