「これで今日の放送を終わりまーす」
「本日の担当は雨宮と湯崎でした」
最後にそう言うと、俺はマイクのスイッチを切る。
ふぅー、今日の放送も終わったー! 回転椅子の背もたれがギシッと軋む。
放送って、変なことが言えないから気が抜けなくて緊張する。だって、俺の音声が校内中のスピーカーから流れていているんだぞ? これで、もし何か失敗したら……と思うと、緊張して何も言えなくなってしまいそうになる。
その点で言えば、相手の湯崎はいつも気楽そうだ。放送中でもかなり適当なことを言っている。しかしながら、アウトなゾーンには絶対に踏み込まない。絶妙なバランス感覚だと思う。俺よりよっぽど放送慣れしている。ホント、羨ましいよ。
その湯崎を見ると、彼女は俺の隣で『弁当~弁当~』と呟きながら弁当箱と箸を取り出して、早速食べ始めていた。俺も腹減ったし、食べ始めるか。
「いただきます」
さあ、今日の弁当は何かな~……って作ったのは俺だからもちろん知っている。無論、弁当の中身が入れ替わったりとか消えていたりとか、怪奇現象は起きておらず、蓋を開けたら今朝作ったものがちゃんと入っていた。
ただ、俺はいただきますの直後から弁当を食べ始める派ではない。まずは水筒で喉を潤してから食べる派の人間なのだ。
というわけで、机の上に置いておいた水筒を手に取ると、蓋を開けてお茶を飲もうと口を付ける。
ちょうどその時、突然何かを思い出したようで、湯崎がパチンを指を鳴らす。
「そういえば雨宮、五十嵐ちゃんとデートしたでしょ?」
「ぶぶっ!」
思わず吹き出しかけて、俺は慌てて口に手を当ててどうにかこらえる。あー、鼻がツーンとしてお茶の味がする……。
それにしても危なかった。もし放送機材にかかっていたらタダでは済まなかったぞ……。
俺はお茶をゴクンと飲み込むと、まだ鼻がツンとしているのを感じながら。
「それ、誰から聞いた⁉」
「あ、デートに行ったことは否定しないんだ」
しまった! またやっちまったー!
というか、前にももっちーに同じようなことをやられたよな! この二人、結構手口が似ているぞ。
って今はそんなことを考えている場合じゃない。もっと重要なことがある。
クリスマスにデートに行ったことを知っているのは、当事者である俺と五十嵐、提案者である姉ちゃんと、姉ちゃんとチケットをくれた水無瀬、この四人だけのはずだ。もっちーにすら話していないのだ。ましてや、湯崎なんて五十嵐と話したことすらないはず。だから、何故このことを知っているのかものすごく気になる。もしかしてまた口軽姉ちゃんが漏らしたとか……?
「えーっとね、五十嵐ちゃんのLIMEのホーム画で分かった」
「LIMEのホーム画⁉」
俺は一旦箸を置くと、慌ててスマホを取り出して起動する。そしてLIMEのアイコンを連打して五十嵐のアカウントを開く。というか、湯崎、五十嵐のLIMEを持っていたんだな……。
その間に、湯崎は説明を続ける。
「五十嵐ちゃんのLIMEのホーム画の写真の端っこに、雨宮の横顔が映っているんだよ。かなり暗かったから分かりにくかったけどね」
「……ホントだ」
五十嵐のアカウントのホーム画の写真はいつの間にか、遊園地に行った時の写真に変わっていた。写真には暗い空の下、光り輝くイルミネーションが映っている。午後五時くらいに撮ったやつだ。
そして、湯崎が言った通り、写真の端っこに注目する。すると、写真の左端に、同じようにイルミネーションにスマホを向ける男性の姿。
……確かに俺だ! 情報社会怖ええええぇぇぇぇええええ!
ということは……。もしこの写真を見て、俺を発見した人は、当然五十嵐と俺が二人でデートに行ったという考えに至るだろう。いや、そうでなくても見つけた人がLIMEなりリアルなりで友達に伝えて広めているかもしれない!
ばっと湯崎の方を見ると、俺の考えを察したのか、ほわんほわんした笑顔で。
「大丈夫、まだ誰にも言っていないし、D組は誰も気付いていないよ……たぶん」
「たぶんって何だよ! たぶんって! 不安になるじゃんか! そこは言い切れよ!」
「ハハハ、やっぱり雨宮って面白いね~」
くそぅ……弄ばれている気しかしねぇ……。
とにかく、今は五十嵐にこのLIMEの写真を早急に変えさせる必要がある。俺は、五十嵐へLIMEでメッセージをポチポチと打ち込み始めたのだった。