俺はアリスを彼女の家まで送っていくことになった。
現在俺たちが歩いているのは学校の近く。我が家からは電車を使って約二十分かかる場所だ。アリスの家はどうやらこの辺にあるらしい。
それにしてもなぁ……俺、帰っていいかな?
ため息をつきながら、俺は家を出た時にアリスから言われたことを思い出す。
「いい⁉ アンタはあたしの三メートル後ろを歩きなさいよ! もし変態男があたしめがけてやって来たら、身を挺してあたしをガードするのよ! いいわね⁉ あ、あと誤解しそうだから一応言っとくけど、別に守って欲しいとかそういうんじゃないんだから! あたし一人で変態は蹴散らせるけど、アンタにわざわざ守らせてあげてるんだからねっ!」
何なんだよ『三メートル後ろを歩け』ってさ……。もし前から変態がやって来たら、俺、カバーできないよ?
あと身体能力もそこまで高くないし……。もしムキムキのナイスガイが突っ込んで来たら、俺、普通に吹っ飛ばされる自信しかねえからな?
それに、頼まれてもいないのに五十嵐が『慧がやるならわたしもやるー!』とか言い出して、勝手についてきているし……。そんでちゃっかりアリスの隣を歩いているし……。
あ、コレ、俺、不要だわ。こっそり家に帰ってもたぶんバレないやつだ。
それでも、俺は帰らないで二人の数メートル後ろをついて行く。逃げ帰ろうとしたらなんかすぐにアリスにバレそうだし、帰れても姉ちゃんになんだかんだバレそうな気がする。
というか、これじゃ俺がストーカーしているみたいに見えるよな! この前まではアリスが俺をストーカーする側だったのに……。はっ、もしかして俺をストーカーに仕立て上げることで、俺をストーカーしていた事実を上書きしようとしているのか⁉ ひえー、恐ろしい恐ろしい……。
かといって二人に近づくとアリスに怒られそうなので、俺は周りの人に勘違いされないように、無関係のフリをすることにした。
それにしても、姉ちゃんの指摘は正しかったようだ。二人から少し離れて道行く人々を観察していると、アリスのエキゾチックな見た目に加え、五十嵐と美少女コンビをなしているということも相まって、道行く人の視線をかなり集めている。もしアリスが一人だったら、声を掛けてくる輩がこの中にいてもおかしくはないだろう。
そんなことを考えている俺の耳に、前を歩く女子二人の会話が聞こえてくる。
「ねえ、そういえばアリスってもう家は決まったの?」
「もちろんよ。これがあたしの家」
そう言ってアリスが指をさした先にあったのは、俺たちの目の前にそびえ立つ高層建築物。
「え⁉ あれってつい最近建てられたマンションだよね?」
「そうよ。あの最上階があたしの家よ!」
「すごーい! お金持ちー!」
マジで⁉ コイツ高級マンションに住んでんの⁉ 天使の癖に豪華だな!
俺たちはそのタワーマンションのオートロックの前まで来る。
「だけど、一つだけめんどくさいことがあるのよ」
「何か不便なことでもあるの?」
「ううん、そうじゃなくて……」
アリスは一旦そこで言葉を切ると、はっきりと言った。
「実はまだ、マンションの部屋代を一銭も払っていないのよね」
……へ?