「痛い……」
「わたし、巻き込まれただけなのに……」
床に色々なものが散乱して家具も半分倒壊している凄惨な状態のリビング。本当に竜巻が通り過ぎたみたいになっている。そのど真ん中で、ミカエルとセラフィリ――五十嵐は二人並んで正座させられていた。
二人とも、頭にはたんこぶができていて、痛そうに押さえている。まるでどこかのギャグマンガのようだな……。まあ、姉ちゃんの鉄拳制裁が強すぎるだけなのだが。
あの後、姉ちゃんはリビングで絶賛バトル中の二人の首根っこを引っ掴んだ。そして、五十嵐を手刀で気絶させて、あろうことかミカエルを思い切り殴り飛ばしてノックアウトした。
こうして、天使二人の仁義なき戦いは終わったのだった……。両方戦闘不能という結果を残して。
まあ、五十嵐が殺されなかっただけ、五十嵐の方が勝ったと言えるかもしれないが。
ただ、それだけでは終わらなかった。
姉ちゃんは五十嵐とミカエルを再度叩き起こすと、無言の圧力で正座させて鉄拳で二人にたんこぶを作ったのだった。そして今、二人の目の前で恐ろしいほどの圧力を出し続け、二人を無言にさせている。
うん、この展開はアレだな。何年も一緒に暮らしていればなんとなく分かる。
たぶん、姉ちゃんはこれからさらに説教をしようとしている。姉ちゃんの説教は長いんだよな~。ネチネチと攻めてくるし、まるで真綿で首を絞められているような感じだ。この点は親父の血が色濃く受け継がれていると思う。
そして、無言の圧力に圧迫されて、冷や汗がだらだらと止まらない二人を前に、姉ちゃんは怒りの言葉を発しようとしたのか、口を開いて大きく息を吸いこんだ。
ところだった。
ぐううううぅぅぅぅうううう~
と間の抜けるような音がしたのは。
もちろん、俺ではない。そして姉ちゃんでも五十嵐でもない。
そしてその音源は、慌てて自分のお腹を見ると、顔を赤くして慌てて言い訳を始めた。
「はぁあうぅう⁉ べ、別にお腹が空いたとかそういうんじゃないからね! ただあたしの消化器官が勝手に音を出しただけなのよっ! 勘違いしないで!」
それ、誰に向かってツンデレしてんの? 心の中で思わずツッコんでしまう。
だが、この一言は確実にこの空気を和らげる材料にはなったらしい。その証拠に、姉ちゃんの無言の圧力がみるみる引いていく。
そして、姉ちゃんははぁ、と一息つくと、俺の方を見て言葉を切りだした。
「慧、もうお昼ご飯はできてる?」
「お、おう……もうすぐ」
「なら、ここでお昼を食べていっちゃいなさい」
姉ちゃん……あんた天使か! 目の前にいる二人(本物の天使)とは大違いだな!
そしてその善意に対してミカエルはというと、ちょっと目を逸らしながら。
「べ、別に世話にならなくても……そ、そこまで言うのなら……食べてあげないこともないわ」
「は? いらないならさっさと出て行け」
「ごめんなさい食べます食べますお昼ご飯を恵んで下さいませ!」
だが、ツンデレは姉ちゃんの底冷えするような声で撃墜された。