五十嵐を見て、『セラフィリ!』と言って駆けだしたアリス・ミシェーレ。
久しぶりに聞いた五十嵐の真の名に、俺と五十嵐は二人揃って、『へ?』という顔をしてしまう。
……おいおい、何故転校生が五十嵐の天使の名前を知っているんだ? 天使の時の名前を知っているということは、当然五十嵐の正体も知っているということだよな⁉ じゃあ何故転校生は五十嵐が天使だということを知っているんだ⁉
もしや、アリスとやら、まさか五十嵐と同じ天使だったり……?
そのアリスは『へ?』という顔をして固まっていた五十嵐を抱きしめる。もちろん、固まっていた五十嵐は避けられずにアリスの勢いのままに廊下に押し倒される。
お、おう……百合百合しい……。
「セラフィリ~会いたかったよ~」
非常に馴れ馴れしく五十嵐に頬ずりしているアリスとは対照的に、五十嵐はものすごく困惑顔だ。
「ええぇぇっと……どちら様?」
「忘れたのー⁉」
その返事を聞いた途端、アリスはがばっと身を起こして『信じられない』という目で彼女を見つめた。
「あたしだよあたし! ミカエル!」
「えっ⁉ ミカエル⁉」
「そーだよ! 何回も一緒に働いたのに~覚えていないなんて酷いわ~」
「ごめんごめん、久しぶり、ミカエル」
五十嵐は意外そうな顔をした後、ミカエルをギューっと抱きしめた。おう、非常に百合百合しい……。
「やっぱりここにいたのね……何も連絡してこないからどうしたのかと思っていたわ」
ミカエルはそう言うと、五十嵐は腕を離して立ち上がり、キョロキョロしながらリビングに入って行く。俺と五十嵐はその後に続く。
そして、彼女はテレビを見た途端、素っ頓狂な声をあげて画面を指さした。
「セラフィリ! アンタこういうのを見ているの⁉」
テレビに映し出されているのは、五十嵐が見ていたアニメ。俺たちの声を聞きつけて様子を見に来る時に、再生を停止したらしく画面は止まっている。
おい、お前は息子のエロ雑誌を見つけたときのオカンか!
「え……うん」
「なんてことなの……!」
そう言ってミカエルは頭を抱える。いや、今テレビに映っているのはエロいシーンではなくて、男子が女子を壁ドンしているシーンなんだが……。
まあ、アニメを初め観るような人からすれば、刺激は強いかもしれないが。
「……ミカエル?」
五十嵐は頭を抱えたまま下を向いて固まっているミカエルに、心配そうに言葉をかける。何かよく聞き取れないが、ブツブツと呟いている。何を言っているのだろうか……?
「なんでこんなものセラフィリがみているのよそうだわセラフィリはちじょうでせいかつしているうちにじょじょにこころがけがされてだらくしてしまったのねかわいそうなセラフィリどうすればこのよごれをおとすことができるのそうだわにんげんたいのてんしはいちどしんでしまえばもとのてんしじょうたいにもどるのよねだったらいまここでセラフィリをやってしまえば……」
聞いてはいけないものを聞いてしまった気がする。というか今、ミカエルはとんでもないことを言っていなかったか⁉ 五十嵐を殺るとか殺らないとか……。しかも、ミカエルからものすごく真っ黒なオーラが出ているように見える……。俺は思わず一歩後ずさった。
そして、ミカエルは突然グルンと振り向くと、焦点の合っていない狂気に満ちた目を俺たちの方へ向ける。ミカエルの右手から光が迸り、次の瞬間、その手の中にはデカいナイフが握り締められていた。
……これは本格的にマズい! このミカエルとやら、五十嵐を殺そうとしている!
というか何故天使はこんなに殺人をしようとするんだ⁉ 天使は全員こんな感じのキ●ガイなのか⁉
俺が五十嵐を背中に庇う暇もなく、ミカエルは動き出す。
「セラフィリー! 戻ってきてー!」
そして、ナイフを両手で握りしめて、ミカエルは五十嵐に突進してきた!