水無瀬が先生に運ばれてから、俺たちは大人しく家に帰った。
水無瀬のことはかなり心配だ。しかし、俺は医者ではないからどうすることもできない。適切な治療を受けて、早く元気になって欲しいと願うばかりだ。
そんなことを考えながら昼食を作っていると、ピーンポーンとインターホンが鳴った。
姉ちゃんが帰ってきたのだろうか? いや、姉ちゃんは家の鍵を持っているはずだからいちいちインターホンを押すはずがない。だとすると、宅配便だろうか?
「はーい」
昼食作りを中断して、俺はパタパタとスリッパを鳴らしながら玄関へ向かう。
ガチャリと玄関の鍵を開けて押し開けようとするや否や、俺が押す前に向こう側へと勢いよくドアが開いた。
ドアを勢いよく開き、ドアの向こう側に立っていた突然の訪問者は。
「あ、アリス・ミシェーレ……?」
「気安くあたしの名前を呼ばないで」
今日俺たちのクラスに転校してきた金髪美少女、アリス・ミシェーレだった。教室で見た時と同じように、青縁の眼鏡をかけている。
彼女はふーっと息を吐くと、眼鏡を取り、その鋭い眼光の照準を真っすぐ俺の方に向ける。
「アンタが雨宮慧ね」
「あ……あ、ああ。そうだが」
コイツ、何故俺の名前を知っているんだ? コイツが教室に入って来てから、俺の本名は誰からも呼ばれていないはずだが。それに、何故俺の家を知っているんだ? もしかして、やっぱり、コイツはあの時のストーカーだったのか!
そんな思いを巡らしている俺に、彼女は再び息を吐くと。
「邪魔するわよ」
そう言って、俺の家にズカズカと上がり込んできた。一応断っているけどさ、俺の許可取ってないよね?
俺は慌てて彼女の前に回り込んで通せんぼをする。
「……何?」
彼女はイライラした様子でこちらに尋ねてくる。
「ちょっと待て……まずこの家に何の用だ?」
「アンタなんかに教える義理は無いわよ! いい? 分かったならさっさとそこをどきなさい」
……よく人様の家に上がり込んでおいてそんなことを言えるなぁ! マジで腹が立ってきた。
「聞こえなかったの? さっさとそこをどきなさい」
俺がどかないでいると、なおもそう言ってきた。どくのはお前の方なんですがねぇ!
……ここはどうにかして強制的にお帰りいただくしかなさそうだ。
さて、どうやって追い返そうか……。そんなことを考えていると、不意にリビングで録画していたアニメを観ていたはずの五十嵐が顔を出した。
「さっきから騒がしいけどどうし……」
「セラフィリ!」
その瞬間、五十嵐の姿を見るなり、アリスは五十嵐が天使だった時の名前を呼び、俺を押しのけて五十嵐――セラフィリの方へと駆けだした。