「思いのほか重い~」
「これでも、総重量の、半分、だぞ……!」
約一時間の買い物を経て、スーパーから出て来る頃には、持ってきた二つのマイバッグはパンパンに膨らんでいた。
五十嵐は主に野菜や総菜、魚などが入ったバッグ(総重量およそ十キログラム)を、そして俺はというと、牛乳などの飲み物類が入ったバッグ(およそ五キログラム)に米(およそ十キログラム)を片手ずつ抱えて持っている状態だ(総重量およそ十五キログラム)。この状態、下手したらダンベルを持つよりも筋肉が鍛えられるかも。俺、マッチョになっちゃう。
それにしても、こんなに買い物をしたのはいつぶりだろう……。
こういうときに五十嵐の存在はありがたい。もし俺一人だったら全て自力で自宅に持ち帰ることはできないだろう。冬休みの宿題をヒーヒー言いながら取り組んでいるだろう姉ちゃんを無理矢理連れてくればよかった……。今は猫の手でもなんでも借りたい気分だ。
俺たちは人通りの多い道をなるべく早く通り抜けて、狭い住宅街の道へ入る。かなり近いはずの家までの道のりが、今は酷く遠く感じられる……。あー、家まだかなぁ……。
米の重みで腕が痺れてきた頃、不意に俺の首筋の辺りに何者かの視線を感じた。後ろを歩いている五十嵐のものではない。間違いない。最近よく感じる、あの視線だ。
俺はその視線に気づかないふりをしつつ、五十嵐を見るふりをしてそーっと後ろを振り返った。
……なんか変な人がいる!
五十嵐の後方数十メートルに、一人の女性がこちらに歩いてきていた。
その人物は、冬だというのに何故か麦わら帽子を被り、サングラスとマスクをして、灰色のパーカーを着て、俺たちの後ろを無言でついてきていた。
こ、怖ええええぇぇぇぇええええ!
俺が子供だったら、真っ先にパパの背中に隠れて、『パパ~あの人だぁれ?』って聞いちゃうレベル。いやよく分かんねえなこの例え。
とにかく、怪しい奴がいる! もしかしてコイツが、ここ数日間俺に視線を注いできた視線の主なのか?
俺は何か知っていないか、と、歩くペースを落として、後ろを歩く五十嵐の横に並ぶと耳元で囁く。
「なあ、さっきからずっと、俺たちの後ろから女の人がついてきているんだが、あの人について何か知っていないか?」
五十嵐は何気なさを装って後ろを振り返る。そして、その女性の姿を視界に捉えた瞬間、あっ、と声をあげた。
「……もしかして知り合いか?」
「うーん……分かんない」
「そうか……でも何故俺の後をついてくるんだ?」
「え、もしかして慧、ずっと付きまとわれていたの?」
「察しが良いな。……最近妙に視線を感じるんだ。確証はないが、俺は多分あの人が見てきているんじゃないかと思う」
「じゃあ、ちょっと行ってくる」
五十嵐はそう言うなり、持っていた荷物を地面に置くと、俺が制止する間もなく、サッと後ろを振り返って女性のもとへと駆けだした。
「え? ちょっ、おい!」
慌てて俺も振り返ると、女性は走ってくる五十嵐にギョッとした後、くるりと振り返って、スゴいスピードで逃げ出した!
その瞬間、俺の疑いは確信に変わった。
完全にストーカーじゃん!