五十嵐の後を追って、俺も米と買い物袋を地面に置いて、ストーカーを追いかける。
だが、いかんせん俺と五十嵐の間の運動能力の差は埋められない。五十嵐はぐんぐん俺を引き離していく。それに、ストーカーの方も、なかなか運動神経がよいのか、俺は追いつけそうにもなかった。
それでも五十嵐よりかは遅いのか、その差はジリジリと詰まる。
果たしてそれに焦ったのかどうかは知らない。
だが、ストーカーは突然、氷も何も張っていない、凹凸もないただの道の中央で、何の前触れもなくすっ転んだ。
そして、転んだ先にあったのは電柱。
「ぎゃうっ⁉」
ゴチーン! という擬音が響き渡るような見事な突っ込み方をして、ストーカーは頭から電柱にぶつかった。
ストーカーは変な声を漏らし、サングラスと麦わら帽子がその脇にポトリと落ちる。そして、頭を抱えてその場で蹲った。
追いついた五十嵐も思わず心配して、『大丈夫ですか……?』と声をかける。
数秒後になんとか追いついた俺も背後からストーカーを見る。かなり鈍い音が響いたが、本当に大丈夫か……?
と、ストーカーが首を回して俺たちの方を見上げてきた。
思わず俺は息を呑んだ。
麦わら帽子の中に隠されていたロングヘアーは金髪。そしてこちらを見る瞳は澄んだ青。顔立ちは整っていて十分美少女と言うに値する。多分、純正外国人だ。
そして、その目には――敵意がありありと浮かんでいた。
俺たち二人は揃って、その目に込められた迫力に押されて一歩下がる。おいおい、俺、コイツに何か悪いことでもしたっけ? 完全に初対面のはずだが……俺に隠された記憶が無ければ、の話だが。
いやいや、今はそのことを考えている場合じゃない。まずは怪我の様子から確認しなくては。
「お、おい、大丈夫か?」
「アンタなんかに心配される筋合いはないわよ」
ぐ、ぐふぅ! とんでもない言葉が返ってきた! 俺は思わず地面に膝をつく。
ストーカー は “どくぜつ” を つかった
けい は 1000 ダメージ を うけた!
という画面が俺の脳内で表示された。インスタント『恩を仇で返す』じゃないかマジで! それに金髪美少女に何の違和感もない日本語で毒舌で返されるとか……とんでもない攻撃力補正だな!
俺が受けたダメージの大きさに思わず呻いていると、あれだけ痛そうに電柱に激突したはずのストーカーがスッと立ち上がると、素早くサングラスと麦わら帽子を拾い上げると歩き始めた。
「もう追ってこないでよね」
こちらを振り返らずストーカーはそう言い放ち……そして再びコケて地面に倒れた。
「「…………」」
「~~~~‼」
俺たちが無言で見ている中、ストーカーは再び立ち上がり、顔を真っ赤にしてこちらを鋭く一瞥すると、ものすごい速さであっという間に走り去った。
いったい何だったんだ……。しかも、『もう追ってくるな』ってこっちのセリフだし。
あ、そういえばストーカーとして捕まえるのを忘れてた……。