粉雪が舞う中、家から徒歩十数分かけて、俺たちは目的地の神社に到着した。
住宅地の中にぽっかりと広がる森の中に位置するこの神社は、まるで何かのパワースポットのようだ。俺たちは住宅の脇から伸びている細い参道をどんどん進んでいく。
雪が降ってきたためか、参道で俺たちとすれ違う人は多い。
鳥居を潜り抜けて境内に入ると、そこにはもうほとんど人がいなかった。
まだおみくじとかお守りとかを売っている社務所は開いているものの、参拝者が来なくなると予測しているのか、もうじき閉めてしまうようだった。
それにしても、神社に来るのは久しぶりだな……。この前来たのは、確かちょうど一年前の初詣の時だった気がする。
と、五十嵐が俺の袖をグイグイ引っ張る。
「わたし、神社なんて来たことないから、お参りの仕方、分からないんだけど……」
「ああ、それなら俺が教えるから」
ここで、ふと俺の脳裏に疑問が浮かんだのでそれを五十嵐に投げかけてみる。
「というか五十嵐は神社でお参りしても大丈夫なのか? 元天使なのに」
「え? うーん……大丈夫じゃない? たぶん」
「たぶんって……適当だな」
ここで祀っている神様は、五十嵐が仕えていた神様とは違う可能性が高いのだが……。まあ、五十嵐が大丈夫だというのなら、きっと大丈夫なのだろう。
俺たちはまず参拝前に、手水舎に立ち寄り、手を清める。
ここの手水舎はセンサー式で、手をかざすと自動で手水が出てくるというハイテク仕様になっている。五十嵐に手水のやり方を教えるのが楽でいいのだが……神社の古めかしい雰囲気とは合わない気もする。
そして、手水を終えた俺たちは道の端を歩いていよいよ神殿へ向かう。
「五十嵐、五円玉は持っているか?」
「う、うん。これでしょ?」
五十嵐は財布を漁ると、ピカピカに輝く五円玉を取り出した。
「ああ、そうだ。それを手に持っておけよ」
「分かった」
俺も自分の財布から五円玉を取り出してスタンバイ。
そして俺たちは階段を上り、神殿の賽銭箱の前に並んで立つ。
「それじゃ、今から俺の真似をしてくれ。俺が念じ始めたら、五十嵐も願いを心の中で念じろよ」
「うん」
えーっと、まずは賽銭を入れるんだっけな。五円玉が賽銭箱の中に入り、チャリンという音が二回続けて響いた。俺は釣り下がっている紐を揺らして、ガランガランと鈴を鳴らす。
次は、二礼二拍手だったな。隣をチラリと見ると、五十嵐も俺と同じ動きをしている。
そして俺は手を合わせて、今年の願いを心の中で念じる。
たっぷり十秒間念じた後、最後に俺は一礼をした。
「それじゃあ、帰るか」
「うん」
俺と五十嵐は神殿を背にして、帰宅の途に就く。
雪がだんだん激しくなってきているので、俺たちは急いで家を目指す。
「そういえば、五十嵐は何を願ったんだ?」
「え?」
まあ、教えてもらえないだろうな。
あまり期待せず放った俺のその言葉に、五十嵐は急にもじもじし始めた。
そして、小声で一言。
「……慧と一緒に居られるように、って」
「……お、おう」
思わぬ形で、俺はドキッとさせられてしまうのだった。
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いったん近づいたとはいえ、五十嵐との距離は再び離れてしまった。
しかも、光のことも俺の中で決着をつけなければならない。いつまでもその過去を引きずっていくわけにはいかない。
俺は積み重なった色んな思いを、白い息に詰め込んだ。