俺には、幼馴染がいた。
近所に住む、明るい性格の、いつも笑っているような女の子だった。
両親が共働きで家に籠りがちだった俺と、その子はよく遊んでくれた。家族ぐるみでの付き合いだったんだ。
もちろん、家が近所とだけあって、学区も同じだった。だから、小学校も中学校も共に一緒の学校だった。一緒のクラスになったのは、その内半分くらいだったけどな。
中学生の時、もっちーと水無瀬と偶然一緒のクラスになったことで、二人とは仲良くなったんだ。特に水無瀬に関しては彼女のおかげだな。彼女は誰かを放っておけない性格だったから、当時から中二病で変人でクラスから浮いていた水無瀬に声を掛けたのが最初だったんだ。
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「それで、その幼馴染さんのお名前は……?」
その質問が、五十嵐の口から零れた時、俺の胸に幻痛が走った。ある程度覚悟はしていたが、やはりこの名前を出すのは辛いものがある。
だが、俺はこれを乗り越えていかないといけない。いつかは克服しなければならない。
俺はその名前を口にしたくない、という意志に抗い、声を振り絞るようにして、かすれた声で、二年ぶりにその名前を口にした。
「……『ひかり』。彼女の名前は、五十川(いそかわ)光だ。何の偶然か、お前と同じ名前だ」
「……!」
五十嵐が息を呑む。そして、何を思ったのかは分からないが、一瞬だけ何かに納得したような表情をした。
俺は笑いながら――力なく笑いながら話を続ける。
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光。彼女はその名前にピッタリの性格だった。いつも笑っていて、明るくて、周囲を照らしていた。彼女の周りにはいつも人が集まっていた。
勉強も運動もよくできていた。何より、彼女にはリーダーシップがあった。人を惹きつけるような、何か不思議な力があったんだ。だから、小さい時から委員長とか学級委員とか、生徒会役員とか、組織の要職に就いていたな。
当然、男子からは根強い人気があった。例えば、バレンタインデーにはチョコが下駄箱から溢れかえるくらい貰っていた。もちろん、女子からもらったものもあっただろうが、男子からのも相当あったんだ。おかしいよな、普通は逆だっていうのに。ホワイトデーに、一人一人に律義にチョコレートを返していくアイツもアイツだったがな。
俺もそんな彼女に魅せられた一人だった。その気持ちに初めて気づいたのはいつだったのか、今はもう覚えていない。けど、これだけは必ず言える。
俺は彼女に恋をしていたんだ。